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あっち側とこっち側
【ショートショート その他小説】

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あっち側とこっち側-1

「やぁ、起きた?」
志保は体を半身起こし、辺りを見回した。
「‥‥ここは?」
周りの景色は真っ白で、ぼんやりとして輪郭がない。
志保の目の前にいる人物が、優しい笑みを携え口を開く。
「ここは境、だよ。」
ぼやけた景色とは裏腹に、口を開いた少年であろう外見を持つ人物はくっきりとしている。
「…さかい、何の?」
まだ寝ぼけているのか、志保の意識ははっきりとしない。
少年は今、志保の瞳に映るどんな物よりも、美しく────白い。

「あっち側とこっち側の境だ。」
「‥‥‥?」
志保の顔には疑問が浮かぶ。
「ところであなた、誰?」
「あぁ、ごめん。君はシホだろ。僕は」
「どうして、私の名前……」
ようやく志保の意識ははっきりとした。しかし、急に全ての風景が乱れる。
「時間みたいだ。君はまだ──」
「何、よく聞こえな……」
再び、薄れていく意識の奥で小さな声が志保の頭に響く。

君はまだこっち側に来ちゃダメだよ。早くあっち側に戻って。

待って!あなたは─…

志保は手を伸ばしけれど、少年がどんどん遠く離れていく。

嫌だ!待って、待ってよ!!



「志保!!」
志保が目を開けると、眩しい光が差し込む。目の前にいたのは、母の姿だった。
「お…母さん?」
「志保!!」
志保の母は涙を浮かべ、志保を抱き締める。
「危なかったよ。君は事故に遭ったんだ……彼と一緒に…」
白衣を着た医者が説明した。
そして『彼』と呼び指差した方には、一人の少年が眠っていた。

「……え?」

その少年は、志保の瞳に映るどんな物よりも、美しく──白い。

「あ、あぁ!い、伊吹!!伊吹伊吹、私、私たち伊吹!うああ…」
志保はベッドに駆け寄る。
母と医者は哀れそうに志保を見つめる。
志保の頭には全ての映像が流れ込む。恋人との幸せな日々、二人で出掛け先で事故に遭った事。そして、あっち側とこっち側の境で起こった事───…

志保はただ泣き続け、ひたすら彼の名前を呼んだ。

志保は理解した。
自分が生き残り、彼が死んだ事を。

僕は、伊吹。
志保はまだこっち側に来ちゃダメだよ。


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