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群像
【同性愛♀ 官能小説】

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群像-1

日差しの暮れかけた放課後、窓から射す赤い太陽光に照らされた薄暗い音楽室に、ピアノの音が響いていた。
歴史ある名門女子校、清玲学園。小学校から大学まで一貫教育を受ける事の出来るこの学園は、良家の令嬢達が集まる事で知られている。
荘厳な古い校舎には、いつも少女達の弾んだ声が響いているが、そこに喧噪は無く、まるで小鳥達がさえずりあい戯れているかのようだ。
けれど、夏休みを目前に控えたこの時期はやはり、皆、旅行の予定等をしきりに話し合い、学園内はいつもに増して華やいでいた。
そんな時期だからだろうか。いつもは5、6人で音楽室にたむろする一年生の集団が、今日は一人もいなかった。
眞子は久しぶりの静寂を喜び、いつもなら一時間ほどで切り上げるのを、この日は太陽が傾き始めたのにも気付かないようで、夢中で鍵盤を叩き続けていた。
この音楽室を眞子以外に使う者は無い。広い音楽ホールが作られて以来、授業や部活動にもそちらが使われ、教師達でさえこの教室の事は忘れてしまったのではないかと思う程だ。
しかし、小等部の頃から、何故か眞子はこの古びた音楽室が好きだった。それでホールが出来てからも眞子だけは毎日、放課後ピアノを弾きに訪れていた。
そんな眞子に気付き、憧れた一年生達がピアノを聴きにやってくるようになったのはこの二ヶ月程の事だ。
生まれ持った品の良い身のこなしに端正な顔立ち。強い意志を感じさせる大きな瞳と長い黒髪が印象的でありながら、全体に色素の薄くはかなげな眞子は、立っているだけで芸術品の様だった。
その何処か俗世間とははぐれた近寄り難い雰囲気に、思春期の女の子達が憧れるのは当然とも言える。それが眞子の望む物ではないにしても。
眞子はなつく女の子達を煩わしくは感じていたが、特別いさめる事はなかった。慣れてしまったとも、諦めたとも言える。
けれど、やはり一人は落ち着く。眞子は自らの奏でるピアノの音だけを鼓膜に感じ、そのひとときを楽しんでいた。
ようやく眞子が動きを止めたのは、益々日が落ち、室内の暗さに楽譜が読めなくなった時だ。
時計を見るともう七時を過ぎていた。
そろそろ帰ろうか…、そう思いふと入り口の方を見て眞子ははっとした。暗がりの中に一人の少女がたたずみ、眞子の方を見つめていたのだ。
少女は眞子と目が合った途端に慌てて頭を下げた。
「すっすみません。勝手に入ってきちゃって。私、一年の河合梨華です。」
梨華はうわずった声でそう言った。
「いつもピアノを聴きに来てた子?何か、御用かしら?」
眞子は椅子から立ち上がり表情を変えずに梨華を見つめる。
「あの、いつもは知らない子達がいるから中に入れなくて、でも聴いてました。眞子先輩のこと見てたんです。いつも。」
またか、と内心眞子は思った。後輩だけじゃない、同級生だろうと先輩だろうと、眞子はこんな台詞を何度となく聞いた事があった。その時の、悦に入った夢見がちな女の子特有の熱を帯びた表情は、何より眞子の苦手とする物だった。
梨華の方へ近づいていき、眞子は教室の電気をつけた。
そして、改めて梨華を見て驚いた。
梨華は顔を紅潮させ、小さく肩をふるわせており、緊張しているのが一目で分かる。おびえた様な、今にも泣き出しそうなその追いつめられた様子からはただ事でない事情が感じられた。
耳の下で二つに結んだ髪が幼く、見るからに世間知らずの令嬢という感じのその少女に、眞子は見覚えがない。
「どうしたの?」
眞子がたずねた。
「先輩…先輩…!」
急に梨華がまるで体当たりでもするように眞子に抱きつき、その勢いで眞子は後ろに倒れしりもちをついた。
「何も言わないで、じっとして下さい!」
梨華はそのまま眞子を押し倒し、口づけた。しかしその唇は乾ききって震えている。
「やめなさい!」
眞子がはねのけると梨華の体は簡単に浮き、壁にぶつかった。
梨華はそのまま、こらえきれなくなり泣きだしてしまった。
「どうしたの、何がしたいの?あなたは。」
眞子は泣きじゃくる梨華を胸に抱き、あやすように頭を撫でながら聞いた。
「聞かないで下さい!先輩!好きなんです。お願いします。何も聞かないで私を抱いて下さい!」
嗚咽をもらしながら叫ぶその様子は、冗談や一時の気の迷いの様には見えなかった。眞子は、そこにただある真摯な自分への想いを感じ取っていた。


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