群像-2
触れるだけの短いキス。
梨華が唇の感触を感じた頃には、もう眞子の顔は離れていた。
「キス、したことなかったの?」
眞子が言った。
梨華は、驚いた表情のまま頭を横にふる。何が起こっているのか分からないかのように呆然としたままだ。
「じゃあ、こういうキスも知らないわね。」
眞子はもう一度顔を近づけた。ついばむように、梨華の唇を上下交互に甘く噛む。脱力した唇の隙間から舌を差し込み、梨華のそれに絡めた。
熱を帯びた眞子の唾液が梨華の口内に流れこみ、梨華は喉を鳴らしそれを飲み込んだ。
初めての感触、初めての柔らかい甘い味、心地よさに身をまかせ、梨華は一心に眞子の口づけを受け続ける。
暖かい気持ちが心に広がり、梨華は落ち着きを取り戻していった。眞子はその様子を感じ取り、満足気にキスを続ける。
優しいだけのキスから次第に快感の火を灯すように、口内の天井や、歯茎の裏側を舌でなぞっていく。
「…ふ…んっ…。」
梨華はもどかしそうにうめき、眞子のセーラー服の袖口をつかんだ。
二人の唇が離れると、瞬間、透明な唾液が糸を引いた。少女達の密やかな繋がりの証の様に。
梨華が濡れた口を動かす。
「先輩…こんなこと迷惑だって分かってるんです。私なんかが、眞子先輩みたいな綺麗な人となんて…。」
眞子は、自身の姿をその潤んだ瞳に映して必死に声を絞り出す梨華を愛しく思った。
同世代の少女達のその純粋さを、これまで愚かだと思いはしても、そこに惹かれること等けして無かったのに、眞子は今、目の前の無垢な少女に触れたい衝動を押さえ切れなくなっている。
「迷惑なんかじゃない。あなただって綺麗だもの。」
眞子の指先がリボンを解くと、梨華の柔らかな髪がふわりと広がり、その細い毛髪が蛍光灯の光を帯びて茶色く揺れた。
「眞子せんぱい。」
「もっと見せて。綺麗なあなたを。」
そう言って眞子は梨華のセーラー服のスカーフを外す。梨華はその言葉の意味を理解した様で、目を閉じ、自らの震える手でセンターのファスナーを下ろした。
「全部見て下さい。」
そう言うと、コマ送りのようにゆっくりと、片方ずつ腕から袖を引き抜き、申し訳程度に肩にかかったその真新しい制服をついに脱ぎ捨てた。
乾いた音を立て梨華の柔肌を守っていたその布が、音楽室の絨毯に落ちる。
「それも取りなさい。」
眞子の言葉に梨華は一瞬ためらったが、ごくりと唾を飲み、決意したように背中に手を回し、純白のレースのブラジャーを一気にはぎ取った。
眞子は、その未だ誰の目にも触れたことのない白い肌を、桃色の乳頭を、隅々までその黒い瞳に映した。
梨華の肌は紅く染まり、汗ばんでいる。歯を食いしばるように全身に力を込め、ぎゅっと瞼を閉じて羞恥に耐えているようだった。