女教師、同性後輩とのその後@-2
「でも……今日会う人は、男の人に乱暴されたことと、自分とすること、何も関係ないよって言ってくれたから。高橋くんが言ったように、スタート地点が違うんだね。その人とすると、すごく安心できる。同じ行為なのに」
「……良かった。そういう人に会えて」
そう言って、拓真は由美香の肩に手を置いた。
そのとき、ガチャリ、と進路指導室のドアが開く。
拓真は咄嗟に手を引っ込める。
ーー清香だった。
「ねえ、高橋くん、今触ってなかった?! セクハラ禁止!」
清香は指を指しながら二人に近寄って、白衣姿の拓真の肩をぐいっと自分側に引き寄せる。
冗談めいて言ったつもりの清香の顔は笑っていたが、拓真はそうではなかった。
「認める。思い余って太もも触った。スカートの中まで手ぇ入れた」
いきなりの発言に由美香は困惑する。
拓真の後ろに立つ清香はーー顔面蒼白だった。
清香の口元はぶるぶると震えている。
「それで、振られた。嫌われるような告白の仕方、した」
「ちょっ……高橋くん! そんなこと、清香ちゃんに言う必要ある……?!」
「彼氏、できたとかいうから。最後に意地悪してやろうって」
顔面蒼白だった清香は、その言葉に顔を上げる。
由美香は、そんな風に拓真に言ってくれたのか。
だがーー清香の内心は当然ーー拓真のしたことに気が気でなかった。
拓真を清香のほうに無理やり振り返らせる。
「出るよ、高橋くん。今、気持ち昂ってるでしょ」
昂っているのはおそらく自分の方だが。
今にも殴ってしまいそうな気持ちを抑えて、拓真の腕を引っ張って、進路指導室の外に出ていく。
「ーー言いたいこと、たくさんあるけど。そんなことしたなんて知ったら、もう普通にできないからね」
今は、授業と授業の間の休憩で、授業で使う主要な教室がないこの階には、人がほとんどいなかった。
「何で、嫌われるようなこと……したの」
「もう、解放されたかったのかも。この間平田さんと、家行った時、はっきり嫌われてたの自覚したけど……ちゃんと、気持ちも伝えて、吹っ切れたくて」
「それ、すごいエゴじゃない。高橋くんが吹っ切れても、瀧岡先生は、……絶対傷ついたじゃん。高橋くんのこと、嫌いになりたくないよ……馬鹿」
「瀧岡先生と、同じこと言うのな」
ふふっと自嘲気味に拓真は笑う。
一方清香は泣いてしまいそうだった。
拓真がしたことにも、おそらくーー恋人ができたと言って、関係を続けられないと拓真にはっきり由美香が告げただろうことも、複雑な感情がないまぜになって、整理がつかなかった。
「ーーでもやっぱり、高橋くんと仲良くできない。女性にそんなことするの、許せない」
「そう思ってもらってかまわない。ごめん、嫌な男で」
清香は泣いているところを見られたくなくて、拓真が言い終わる前に職員室へと向かう階段へ足早に駆け出していた。