《魔王のウツワ・4》-3
※※※
店内は黒塗の棚に、長き時を過ごした本達が所狭しと並んでいた。
その奥には店長と思しき爺さんがこっくり、こっくりと船を漕いでいる。
「こういう所、好きなのか?」
「はい、意外な掘り出し物とかがあって、そういうのを見つけるのが楽しいんです♪何か宝探しみたいで♪」
姫野の表情は生き生きとして、本当に楽しそうだ。学校での大人しい雰囲気と少し違って、新しい姫野の一面を見ることが出来て、何だか新鮮な感じだ…
「普段はどんな本を読むんだ?」
「えっと…ファンタジーとか……後…恋愛小説も…」
イメージ通りの回答だな、姫野らしい。
「こ、子供っぽいとか…思わないで下さい…」
姫野は恥ずかしそうに目を伏せた。
「いや、別に子供っぽくはないんじゃないか?」
「ほんと…ですか?」
「ああ」
姫野は良かったぁ、と小声で呟いた。
「鬱輪さん…難しい本読んでるから…ファンタジーとか…嫌いなのかな…って…」
「本は全般的に好きだから…ファンタジーも嫌いじゃない」
そこで一度、言葉を切った。
「…もし…良かったら、姫野のオススメのやつとか…教えてくれないか?」
「は、はい!喜んで!」
姫野の顔にまた笑顔が浮かんだ。
※※※
古本屋で姫野は恋愛小説を、俺は時代小説を買った。
「…あの…その本…また貸してくれませんか?」
「あ、ああ」
そんなことを話しながら古本屋を後にした。
姫野と共通の話題が出来た様で嬉しかった…
「なあ姫野…」
とりあえず会話を続けようとした時…
「待て、コラァ!」
寂れた商店街を数人の男達が一人の男を追いかけている。
その怒声に姫野の身体が一瞬、ビクッとなり、硬直した。
「待てと言われて待つ奴なんかおるかい!」
見間違えかと思った…
いや、見間違えであって欲しかった…
「ん?…鬱輪やないか!ええとこにぃ!」
違う…違う…アレは赤の他人…