投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

《魔王のウツワ》
【コメディ 恋愛小説】

《魔王のウツワ》の最初へ 《魔王のウツワ》 21 《魔王のウツワ》 23 《魔王のウツワ》の最後へ

《魔王のウツワ・4》-2

「どうしたんだ?俺に用事か?」
「えっ…あ、あの…その…用事では…ないんですけど…」

ゴニョゴニョと口ごもる姫野。そんな姿を見ていると何だか動悸が激しくなる。

「…なあ、姫野一緒に帰らないか?」

何故、こんな言葉が出たのだろう…
だが、言葉はあっさりと、そして澱みなく零れた…

「は、はい!」

姫野は満面の笑み(顔半分が隠れている為、正確には半面の笑みか?)で応えた。

その表情は日向の様に暖かく…こちらの頬を朱に染める…

ああ…本当に癒される…

※※※

少し遠回りして帰ることにした。ノワールは寝ているらしく、バッグは動かない。
普段通る住宅街から街中へルート変更する。だが…

「…すまない」

街中は選択ミスだった…
俺が目立つので、人々の視線は当然、隣りを歩く姫野にも集中する。
姫野は終始ビクビクと怯えた様な表情をしている。

「…いえ…まだ…これくらいなら…大丈夫ですから…」

意味深な言い回しは気になったが、余計な詮索はしなかった。いや、出来なかった…
聞いてしまったら、あの暖かい笑みが消えてしまう様な気がしたから…

「ちょっと横道に逸れよう」
「…はい…」

俺達は視線から逃げる様に横道に入った。
路地裏とまではいかないが、それでもかなり細い道を通っていく。
すると、寂れた商店街に出た。大半の店はシャッターが降りていた。
閑散として人影はなく、社会の厳しさをまざまざと見せつけられた様に思えた。

「さっきはすまなかった…」

足を止め、姫野に向かって頭を下げる。

「いえ!鬱輪さんのせいじゃないです。それに…鬱輪さんは私を気遣ってくれました…だから…謝らないで下さい、私は気にしてませんから」
「姫野…」

姫野にそう言われると尚更申し訳ない気持ちになる…
だが、それと同時に胸が高鳴る。ドキドキ…と痛いぐらいに…

「あ、あの…鬱輪さん?どうしたんですか?」

姫野が不思議そうに声をかけてきた。

「あ、ああ…すまない、考え事だ」

俺としては僅かな時間だと思っていたのだが、実際には結構な時間、ボ〜ッとしていたみたいだ。

「い、行こうか!」

また、歩きだした。

「あの…ちょっと…寄りたい所が…」

姫野の視線の先には、一軒の古びた店が佇んでいた。
看板には年代を感じさせる『古書』の字が書かれている。

「古本屋か」
「…はい…あっ…嫌でしたか?」
「いや、行こう。俺も…本は好きだから…」


《魔王のウツワ》の最初へ 《魔王のウツワ》 21 《魔王のウツワ》 23 《魔王のウツワ》の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前