ふたり【序章・結】-2
さて、みんなの勘違いはこれで解消したとして、今度はこっちのおてんば娘の勘違いをどうにかしないと。泣きそうな顔になってるよ。
「フフッ、今回はなんと俺のボキャブリー炸裂で初しょ〜り!」
「は?……勝利ってどういうこと?」
怖っ!……睨むなよ……
「だから〜、うまく断れたんだよ!しかも泣かさずにな!」
「な〜んだ、そういうこと〜?あたしてっきり付き合う気なのかって思っちゃったよ〜。」
一転して眩しい笑顔。
「「アハハハ。」」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
……それにしても、貴重な体験したな、俺。
ほんの30秒の間に、愛しの人の飽きれ顔・泣きそうな顔・悪魔の睨み顔・天使の笑顔が見られたんだから。
「中、入ろ。」
……うん。やっぱりエリカの笑顔は最高だ!
ドアに向かって歩き始めると、中から可愛らしい声が聞こえてきた。
「エリカ〜?外〜?」
ガチャッ
「あっ、お兄ちゃん!おかえりなさーい。」
エリカに負けず劣らずの素っ晴らしい笑顔。
この子は
斎藤あかね。
1つ年下だから小6。
エリカの妹。
俺のことを「お兄ちゃん」と慕ってくれる。
「はい。中へどうぞ〜。………あっ!お兄ちゃん!血が出てるよ!」
え?・・・あ、本当だ。肘にちょっとだけ血が滲んでいる。
「も〜、エリカ〜!なんで気付かないのよ〜。お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ。早く手当てしないとばい菌入ってひどくなっちゃうんだからね。」
あかねは遊輝の左手を引っ張って家の中へ入っていく。
リビングのソファーに座らせると、すぐに救急箱を持って来た。
手際よく治療する。
「しみる?ガマンしてね。」
――痛て!痛てて!
……消毒液ってなんでこんなにしみるんだろう……
……でも顔に出しちゃダメだ。男なんだから。
遊輝はあくまでも平静を装った。