隣室 ……… 第三の物語-25
その日、わたしは街の図書館で過去の新聞記事を探していた。
十四年前のあの日………暴走運転の少年たちの事故の記事。夢の中で男が言ったとおり、車は崖から転落し、乗っていた少年たちは全員死亡していたことが書かれていた。ただ………死んだ少年はふたりではなく、三人だった。
まさか………あの男も死んでいたの。背筋を凍りつかせるようなものが撫でた。わたしはいったい誰と夢の中で関係をもったのか。
男の亡霊……わたしの記憶の中から夢となって甦ってきた亡霊。脳裏で彼の姿が幻影のように揺らいでいた。
図書館の帰り道、黄昏の空に星が見えた。星は遠い彩(いろ)の光を滲ませていた。それはわたしの心と体の知らないところに潜み続けていた秘密の光のように感じられた。
夢を見たあと、夫との生活で何かが変わったわけではない。でもこれから何かが変わっていくような予感がした。それは夫が今日の朝、わたしに向けた視線に感じた。それは夢の中でアイマスクをされたわたしが感じた視線に違いなかった。そして夫から微かに漂ってくる体臭は、夢の中のあのとき、あの場所で感じた匂いに違いなかった。
しなやかな秋の風が窓のカーテンをすり抜け、わたしの記憶の中にある夢を撫でる。
夫はいつものように仕事に出かけた。わたしは夫のいない書斎で、あのノートを手にする。
そこには、いつのまにか文字が書き加えられていた。
――― 女は待っている………隣室で。女は私だけのものになる。私は女のために首輪と手錠を用意している………。隣室にいる女に潜んでいる秘密は、彼女の記憶の中に散りばめられた星の彩りで染められていく。女が私の中で甦るために。