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アンソロジー(三つの物語)
【SM 官能小説】

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隣室 ……… 第三の物語-21

 確かめられるべき記憶が不意に脳裏に浮かぶ。夫と結婚し、数か月たって(そう、夫がわたしの肌に触れたのは数か月もたってからなのだ)、初めて夫がわたしを求めてきたとき、彼が最初に触れ、頬ずりをし、接吻したところが足首だった。それが初めての彼の愛撫の箇所だった。
 あのときの夫の姿がモノクロームの映像となって記憶の中に流れていく。夫は足首から足指まで丹念に愛撫した。足先の輪郭に唇を這わせ、一本一本の足指のすき間に舌を差し込み、指を口に含み、溢れるような唾液をまぶした。わたしは体の初めての性感を足先に感じた。いや、そこがわたしの性感の始まりの箇所だということを知った……。
 

男の指は太腿の内側を這い上がる。ふたたび指は手となり、ふわりとした羽根になる。太腿の内側を何度も上下し、撫であげる。

あっ、あっ……………うふん………うっ……
感じる……あまりに感じすぎる。自分の体に戸惑いと淫らさが掻き乱れていく。体のどんな部分も彼の視線と指によって遠い記憶から目覚めたような性感として甦ってくる。男の指のしぐさはとても美しく流れ、這い、なぞり、わたしの体に火をつけるのにあまりに完璧すぎた。わたしは彼の指に操られるように欲情の奴隷となる。

指が繊毛の中に潜んでくる。男の呼吸を感じる。男がわたしの陰部に注ぐ視線を感じる。跪いた彼はわたしの下半身を目のあたりに見ている。わたしの恥丘に甘い息を吹きかけられるほど近いところで肉の合わせ目をその視線でなぞっている。
彼の視線と指がひとつなる。それは手となってわたしの繁みをふわりとなびかせる。愛おしい息を繊毛のすきまに感じる。漆黒の繁みがさらに濃さを増し、湿り、乱れる。陰毛が彼の指に絡んでいくのを感じる。一本の指が二本になり、繁みを掻き分け、肉の合わせ目に近づいてくる。
陰唇がなぞられる。指の腹で薄くなぞられただけで、わたしの体は敏感に反応する。目隠しをされていることでその淫靡な感触は水面の波紋のように増幅されていく。

丹念に、執拗に、繊細に、優しく、そしてわたしの淫らさを煽るように。指は陰部の入り口だけをこね、つねり、擦(こす)り、かき乱し、中に入ってくるかと思えば、すっと離れてしまう。それは何度も繰り返される。それは焦らされる苦痛の快感をわたしに与える。

欲しい………とても欲しいわ………きて……早くきて……お願い………
観念するような細々とした声を洩らす。

男の指はわたしを求める彼の肉体そのものであり、わたしに入り込もうとしている愛おしいペニスとなる。欲しかった彼がそこにいる。目隠しをされた瞳の中で彼の肉体の美しい断面が万華鏡のような星の光彩を散りばめる。
敏感になり過ぎた体が自分のものでないように解き放たれていく。わたしの忘れられた欲情は息吹くように甦(よみがえ)り、肌に浮き出た血管となって脈をうっている。体中の性感が焦らされる。渦を巻く熱に侵された体の欲望はもう止められなかった。肉襞が微かな収縮を始め、肉片のすき間から蜜液が滲み出すのを感じる。その液をすくい取るように男の指が割れ目にぐっと侵入し、襞を狂おしく悶えさせる。肉洞の浅いところで抜き差しされる指の蠕動は、拷問のように繰り返される。
ピチャ、ピチャと卑猥な音が聞こえる。それはわたし自身の肉奥から滲み出る音だった。
そして指は、突然、すっとわたしから抜かれていく。
や、やめないで………わたしの体から絞り出されるような哀願の悲鳴。始まりかけた肉の震えを包んでいたものが引き剥がされる。熱を持ちすぎた体が置き去りにされるほど残酷な仕打ちはなかった。わたしはそういう自分の体を初めて知らされた。


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