隣室 ……… 第三の物語-19
めまいのするような渇きと癒しがわたしを甦らせていく。わたしの中に奥深く潜んでいた獣が這い上がってくる。獣は、まるで餌を与えられたように男のペニスを夢中で貪る。わたしが自分自身から脱皮していくように狂おしく欲情し、咥えた肉幹をこすり、亀頭をなめ上げ、しゃぶり、甘噛みし、吸い尽くそうともがく。唇はわたしの性器そのものだった。この年齢になってわたしは初めてそのことに気づかされた。
やがて男の肉幹の芯がどくどくと脈を打ち始める。そして小刻みに痙攣し始めたとき、一瞬、ビクンと反り上がった肉幹の先端が強く口の奥にねじこまれ、生あたたかい樹液がわたしの口の中に放たれた。精液の甘い匂いが鼻腔を覆い、ねっとりとした樹液が咽喉を流れていく。
男はその瞬間も声をあげなかった。おそらくわたしのその姿をじっと見ているだけなのだ……わたしが誰にも見せたことのない、わたし自身が知らない、わたしのほんとうの顔を。
唇と舌の火照りが止まらないまま、わたしは抱きかかえられる。
鎖の束が絡む音がした。ガチャリと音がした。手錠が嵌められた胸の前の両手首が頭上に引き上げられていく。腕と胴体がのけ反るように伸び切り、ふくらはぎが強ばり、脚のつま先がピンと引きつり、ようやく床に触れるところまで吊るされると、伸び切った体全体の筋が張りつめる。
鎖が軋む音がした。胴体が微かに揺れ、太腿がよじれ、足先が不安定に床の上でもたつく。
のけ反る体の無防備な感覚だけがわたしをじわじわと侵していく。それがどんなに恥辱にまみれた姿であるか、わたしはアイマスクで閉ざされた瞼の裏に自分のむき出しにされた体を描いた。
声を発しない男が私のまわりを立ちまわる気配だけが漂う。わたしの体は男の視線に耐えるように息をひそめる。指が髪に触れ、頬をなぞり、首筋を撫でる。そして顎をしゃくりあげたところで、不意に止まる。男が冷酷に笑ったような気がした。
男のたった一本の指先は予期しないところから無防備なわたしの体に触れてくる。鎖骨をなぞり、乳房の谷間を這い下がったかと思うと、お尻のすきまに差し入れられ、脚の膝を撫でたかと思うと、すっと這い上がる気配とともに腿の内側に触れ、陰毛をなびかせ、へそのまわりで円を描く。淡く優しく、繊細に、そして淫らに指は触れてくる。
恥辱に深く浸らされるような快感がひたひたと波立たせ、わたしの体を冴えさせる。それは生まれて初めての快感だった。不意に背中の窪みに一本の線を刻むようになぞってくる。背筋をくすぐられる男の指の甘い感覚が体を煽(あお)るようにうずかせる。
ああっ…………あっ……はぁ……………
かすかな喘ぎ声が唇から洩れる。突っ張った胴体がくねると、鎖の軋む音がした。不安定な足の爪先までが男の指をあまりに感じすぎ、よろよろと悶えるように床をさまよう。甘やかで濃密な指の感触がわたしの体をいやというほど目覚めさせる。疼きは止めようもない欲情となって体の奥から込み上げてくる。
アイマスクで目隠しをされていることがわたしの体をとても濃くする。恥じらいは消え、体がどんどんゆるみ、開いていく。お尻がぶるぶると揺れ、反り上がる。いつのまにかわたしは男の指をねだり、哀願するように悶えている。
男の指が手に変化する。残酷な手に。張りを失いはじめた乳房を揉むようにすくあげ、下腹の余分な脂肪の肉を摘みあげ、垂れたお尻の肉をわしづかみにして、ゆすりあげる。その感触は男の嘲笑となり、わたしの色あせ始めた肉体の惨めさを拷問のようにじわじわと意識させる。わたしの中に冷水を浴びせられたような屈辱が頭をもたげてくる。