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ふぉあしー
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ふぉあしー@〜屋上の飛べない天使〜-1

私の髪を心地よい風が撫でる。私は、嫌なことを全て吹き飛ばしてくれるようなこの風が好きだ。
この10階建てのマンションの周りには遮蔽物がないため、私のいる屋上にはこんなに気持ちいい風が吹いてくる。
「あ、鳥…」
私の視線の先には2羽の鳥が飛んでいた。つがいだろうか?とても仲が良さそうに飛んでいる。
種類は…わからない。雀や烏じゃないってことは分かるんだけど…
「I wish I were a bird…」
もし私が鳥だったら…
ふと口をついて出た言葉。くだらないと思っていた学校で習った英語の例文。
何でこんなもの覚えてたんだろ?やっぱり鳥になりたいって思ってるのかな?なれるかな?
「ここに足をかけて身を投げ出せば、鳥みたいに風に乗れるかな?」
私が足を柵にかけて身を乗り出そうとしたその時だった。
「無理だね。あんたは鳥なんかにはなれない」


俺、榊原駆が『それ』を見たのは下校途中だった。
「……………………っ!」「どうしたの、駆?もしかして…」
「ああ、また『視た』」
「今度は何を『視た』の?」
空を飛ぶ2羽の鳥。髪を風になびかせる少女。並べて置かれた水色のスニーカーとその下の白い便箋。衝撃音。鮮血。慟哭。幼い男の子。泣き叫ぶ人々。そして…
「天使……?」
「駆、天使ってどういうこと?」
「恵、お前はここにいろ。ちょっと行って来る!」
「行くって、どこに?それに駆は目が…」
「大丈夫だ。俺にはこれがある」
そう言って右手に持った白い杖を挙げる。そう、俺は目が見えない。
幼い頃のある事故以来、俺は光を奪われたままだ。しかし代わりに手に入れたものがある。
それがこの能力――『未来』を『視る』能力――だ。最初は全く信じられなかった。今だってかなり疑っている。
だからこんな訳のわからない能力について誰かに話すわけにはいかず、知っているのは横にいる俺の幼馴染み、秋津恵だけだ。
俺は俺の左手を握っている恵の手を優しくほどいて言った。
「すぐに戻って来るから心配するな」
「うん……」
俺は走れないがそれでもできるだけ速く向かった。
駅前にできたばかりのマンションへ。


そして今に至る。
「無理だね。あんたは鳥なんかにはなれない」
私は柵にかけていた手と足を外して、声のした方に顔をやる。そこには私と同い年くらいの少年がいた。
目を閉じて、白い杖を握り締めている。あの杖は見たことがある。確か目の見えない人が持っている…
「一体何の用なの?私が鳥のように風に乗るのを邪魔しに来たの?」
「…まあ、そうなるかもな」
「テレビドラマみたいに私を説得して、自殺をやめさせようとするの?」
「ん?勘違いしないでくれ。俺はあんたの自殺を止めにきたわけじゃない。あんたが『ここから飛び降りる』のを止めにきたんだ」
「同じじゃない…」
「いや、違う」
「どこが違うっていうの?」
「俺はあんたがここから飛び降りなければ、後はどうなっても構わない。つまり、あんたが死のうが生きようがどうでもいい」
「何それ?意味分かんない」
「確かにそうかもしれない。言っても信じないだろうが、一応言っておこう」
「何?」
「あんたがここから飛び降りたら、下を歩いている幼稚園帰りの男の子が巻き添えなって死ぬ。今この子が死ぬことは避けたい」
「は……?ますます意味が分かんないんだけど。それに何で私が飛び降りたら、その子が死ぬってことが分かるの?未来を見てきたわけじゃあるまいし…」
「『視て』きたんだよ」
私は笑い出したくなってきた。未来を見た?そんな馬鹿げたことがあるわけない。


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