5日め-2
嫌な予感がする。小走りに、その子の後を追うが見当たらない。ふと、飛び込んだのは、社用車が並んだ駐車場だった。人影がある、俺は、その場に走り寄ると、能面のように固まった顔で倒れてるその子と、ズボンを脱ごうとしている男がいた。
「何してるんだ!」
「はぁ?なんだお前。どっかいけよ」
「彼女じゃないだろ?お前、警察呼ぶぞ」
「関係ないだろ?」
「あるよ」
俺はその男の肩を掴んで、その子から遠ざけるようにすれば、その子の前に立ちはだかるようにした。俺は、その子に、声をかけたが、恐怖で怯えたようで、声が出ないようだった。俺は、その子に声をかけ続けていたが、突然、ガツンと頭を殴れた。
「痛っ」
「なんだよ、お前。まじ、いらねーな」
立ち上がって、取っ組み合いになったが、諦めたように立ち去ろうとしている男を羽交い締めにした。
「警察呼ぶからな」
「うっせーな」
そして、またアスファルトに頭を打ち付けた。じわりと生暖かい血が溢れている感じがする。起き上がって、また、その男の足をつかみながら、顔や胸を蹴られていると、
「助けてー!」
その子が叫んだ。そうすると、学生風の男が2人、駆け寄ってきて、近所からも人が出てきた。ただならぬ雰囲気に、すぐに警察が呼ばれ、その男は、その場の男たちに抑え込まれた。
俺は、倒れたまま、その様子を見守っていると、その子が抱き寄せてくれた。
「大丈夫ですか?救急車来るので」
「平気。君は大丈夫?」
「…はい…大丈夫です。ほんとに、ありがとうございます」
「良かった。変なことされてら、まじで、あいつ、殺してたかも」
「全然。どこも、触られてないですし。怪我もしてないので」
「…でも…でも、血が…」
俺は、柔らかなその子の胸に抱きしめられた。もう、このまま死ぬのかな?まあ、こんな可愛い子の胸に抱かれて死ぬのなら、それはそれでいいや。人生短かったけど、人の役にもたったしな。などと思いながら。
その後は、記憶にない。
ただ、夢なのか、妄想の中なのか、わからないが、その子と、俺のアパートにいるということだけは理解した。
「俺、このまま死ぬのかな?」
「……何もしないと」
「ん?どいうこと?」
夢の中でタバコを吸いながら、カーペットに座れば、少しぬるくなった珈琲を啜り飲んだ。
「神様?いるのか、わからないですけど…。私を助けるか、見なかったふりをするか?また、同じ時間、同じ場所に戻すから、選んでもらうことはできるって」
「神様。でた!嘘くさいけど、まあ、何ていうか、今もあるから、まんざらでもないのかもね」
「…はい。なので、助けなくても…」
「それはない!君のこと、ずっと見ていたし、あ、可愛いなってね。まあ、ちょっとエッチなことも思ったけどさ。でも、好きだったしね。」
「だから、何回、その場面になっても、同じことするよ」
「……うっうううぅ…」
その子は、嗚咽をあげるように泣き出してしまった。ああ、わかった。あの子とエッチできたら、死んでもいいな?って思ったから、この子は、ずっと、それを実現しようとしてくれていたんだ。
「ねえ?それより、君は平気?」
「あ、そうだ、名前は?」
「美空です。木下美空です。平気…じゃない…です。武志さん死ぬのいやだし。それに、思い出すと怖くて…怖くて…」
「美空ちゃんか。そうだよね。でも、きっといつか傷が小さくなる時がくるよ。大丈夫、俺が天国から、守ってるからさ」
「ううぅぅ…あぁぁぁん…」
美空は、俺に抱きついてくると、大声で泣いた。どれくらい経ったのか、そもそも時間という概念が、ここにあるかもわからないが、少し落ち着いた美空を玄関まで送り届けた。
「元気でね?」
目を真っ赤にしながら、何度も頷くと、その場から立ち去ろうとしない、美空を隠すように、俺から玄関のドアをしめた。
さて、そろそろ死ぬか。ただ、心残りがある。あの様子では、美空は男性恐怖症になってしまうかも知れない。そうしたら、彼氏との楽しいデートや、結婚なんかが出来ないかも知れない。
俺は、全裸のまま、ベットに横たわると、
「神様?いるのか、わからないけど。お願い聞いてよ。美空、あのままじゃ可愛そうだろ?その時の記憶を消すとか、何かできるだろ?」
そう声に出して呟いた。
「お前の選択次第だよ」
「俺の?助ける、助けないはないよ。助けるから」
「わかってる。ただ、もう1回だけチャンスをやろう。何度も選択を間違えることは出来ない。わかるな?生きていれば、こっちか、あっちか必ず選択がある。どっちを選ぶかは、お前次第だ」
「美空が無事なのなら、何でもいいよ」
「わかった」
そのまま、誰かの声を聞くと、俺の意識は遠くなっていった。