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青の家
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青の家~後編~-2

何も答えないマリア。いや、答えられないのだ。窓の無い部屋で、時間の流れや日付など全く分からなくなっていたのだから。
「三日間」
「三日間!?」
「そう、この三日間でこの世界は壊れました」


――コワレマシタ。


マリアの頭の中で、ミス・ケリーのその言葉が何度もリピートされていた。
「この世界の限界が訪れただけ。壊れることは、15年前から知っていました。だから私はこの子たちを集めたのです」
マリアは『この子たち』の中に入っている礼を見た。礼は「ん?」と言って微笑んだ。
「将来を約束された…」
「半分正解だけど半分間違っています」
「僕は別に天才な訳じゃないよ」
礼は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ここに集まるのは、何かずば抜けた才能の持ち主。例えばこの礼。礼の聴力・視力は、共に普通の人間の4倍です。そして私は、未来を予測することが出来ます」
「予知能力?」
「非科学的ですけどね。この中の人は、皆様々な能力を持った人たちです」
「…じゃあ、他の人たちはどうなったの…?ただの普通の人たちは…」
マリアは俯き、暗い声でそう言った。
暫く時間を置いて、ミス・ケリーはゆっくり、静かに口を開いた。
「その人たちは…亡くなりました」
マリアはその場にへたり込んでしまった。というよりは、力が抜けたと言った方がしっくり来るだろう。
「パパと…ママが…。智樹が…歩、志保、梨奈…。優子先輩が、先生が…死んだ?」
乾いた地面にポタポタと涙が落ちる。
「あたしはここに来る人間じゃない。普通の人間…。皆と同じ普通の…。どうして、私だけ生きてるの…?生きてるのに、どうして独りぼっちなの…?あたしは死ななきゃいけなかったのに…皆と一緒に…」


――モウ、会エナイ…


「死んじゃいたい。このまま独りぼっちになるくらいなら…死んでしまいたい。あたしには何も無い。あたしだけ生き残るなんてズルい…」
「何も無い?」
ミス・ケリーはしゃがみ、震えるマリアの肩を抱いた。
「あなたは気付いてないかもしれない。だけどあなたは確かにここにいる。あなたには『言霊』があるのです」
「コトダマ…」
「言葉には命が宿ります。誰でも言霊は使えます。もちろん私も。だけどあなたは人一倍なのです。あなたの言葉は時として、命を救う場合があるのです」
マリアはミス・ケリーをキッと睨んだ。
「あたしはそんなにすごい人間じゃない!」
「いいえ!あなたが目を閉じた時、思い浮かぶのは大切な人たちの笑顔じゃないですか?」
あの時、真っ暗な部屋で小さくなっていた時、思い浮かぶのは皆の楽しそうな笑顔だった。
「それはあなたの言葉のおかげです。あなたが楽しいから…心の底から素直に溢れる言葉に、周りの人たちが素晴らしい笑顔になるのです。あなたに、笑顔にさせられるのです」
「そんなこと言ったって、もう、誰も帰ってこない…」
「言いましたよね?あなたのご両親は私と共に来てくれることを承諾してくれた、と…。私は、壊れた世界をもう一度修復したいのです。そのために、世界各地から能力者を集ました。その最後の一人があなた。あなたが日本にいるから、私たちは日本語を勉強し話せるようになりました。あなたの言葉が必要だから理解出来るようにしました。そう話したら、あなたに世界を託したいと、ご両親はおっしゃってました…」
「…ぇ」
マリアはミス・ケリーを見つめた。その青い瞳には、薄ら涙が浮かんでいるようだった。


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