翻弄される奉仕-5
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2年生の数学担当の凛々しい太眉がトレードマークな男性教師の城ヶ崎成政。ライムグリーン色のポロシャツにクリーム色のズボンスタイルという格好だ。彼は2階の廊下を悠々と歩いていると、黒いジャージ姿の女体育教師と廊下ですれ違う。
「あ、今橋先生。先日は小テストの採点助かりました」
「城ヶ崎先生。いえいえ、お役に立てたならなによりです」
すれ違いざまに挨拶がてら採点を代わってもらったお礼を言う城ヶ崎成政。小テストの採点をしてもらった以来、あの後個別で会う機会が無かったのでここで直接お礼を言うことになった。
成政は、にこやかに微笑みながら京子の顔を見てふと気づく。今橋京子の唇の間に挟まって見える黒い線。それも妙に縮れているように見えた。
「(えっ?)」
成政は思わずその場で目をゴシゴシと擦ってからもう一度見てみる。その縮れ具合からそれは黒い線ではなく、陰毛じゃないのかと思った。
次に生じたのは疑問だ。何故陰毛が唇の間に挟まっているのかという疑問。自分の陰毛が唇に付着するのは考えづらい。それは何らかの性行為によるものだということが容易に想像できる。確かに今橋京子の美貌からして相手がいてもおかしくはない。
しかし、ここは学校だ。年頃の生徒たちの学び舎でそんなことをする相手となれば、教師陣以外にも生徒らもその対象に入る。いずれにしても、それは褒められたことではない。
だが、指摘して何らかの面倒事に巻き込まれるのは嫌だった。子持ちで妻もいる城ヶ崎成政にとって、学校で余計なトラブルに巻き込まれるのはごめんだった。それが数学の小テストを採点してもらった同僚とはいえ、それとこれとは話が別なのだ。
「あの、私の顔になにか?」
京子は不思議そうな表情で尋ねる。成政に考える余裕はなかった。彼は陰毛のことは記憶から抹消し、何も見なかったことにしようとその場から後ずさりする。
「!?あ、いえ、なんでもないんですよ!」
城ヶ崎成政はそれ以上言わず、その場から逃げるように去っていく。そして胸中で彼は自分が陰毛に見えたのは錯覚であり、あれはただの黒い線だと思い込むのだった。