背徳の口づけ-1
初めてセックスしてから翌日の昼休み。すっかり2階の空き教室に呼び出されるのが日課になりつつあった。
「こんにちは先生」
「‥‥北森」
教室に入るなり明るく挨拶する総一に対し、室内で待っていた京子の表情は険しい。
「どうしたんですか先生」
教室の中央部という定位置に立ってから総一が理由を尋ねると、京子は口を開く。
「お前、この教室で私にしたこと忘れたのか?」
「この教室でしたこと?‥‥あぁ、セックスですか。お互い気持ちよかったですね」
にこやかな顔で昨日のことを思い出す総一。対し、京子は立派な胸の前で腕を組んで仁王立ちで問いかける。
「言いたいことはそれだけか?昨日、お前と私はセックスしてしまったんだぞ。私は許婚の相手がいるというのに、その相手と同じ学校の生徒と‥‥」
京子は青ざめた表情で語る。どうやら彼女の様子から察するに、昨日は勢いで忘れていたようだが日付が経ってしまって昨日の性行為で罪悪感を覚えてしまったようだった。
「まあ、しょうがないですよ。ヤッてしまったことを今更あーだこーだ言ったって昨日に戻れる訳ないですし」
総一は気楽に昨日のことをポジティブに受け入れようとアドバイスすると、京子はキッと険しい表情で睨む。
「よくそんな風に解釈できるな!」
「俺的には嬉しいですもん。だって、先生のおかげで毎日楽しく学校に通えてますから」
これは事実だった。今学校に通えているのは京子のおかげ。この関係が終わってしまえばまたあの陰鬱な学校生活に戻るかと思えば、そっちの方が耐えられない。だから、総一は今の関係を繋ぎ止めつつもその先へ先へとさらに進展することを望んでいる。
「ねぇ先生、キスしません?」
「なっ!?」
総一が唐突に口づけをすることを尋ねると、京子は険しい表情を崩してたじろぐ。
「どうせ今日呼び出した理由も、なんだかんだ後悔してるって思いながらも結局はセックスしたいから俺を呼んだんでしょ?」
「っ!?い、いやそれは‥‥!」
身も蓋もない言い方だったが、明らかにうろたえる京子の様子を見る限りあながち間違いではなさそうだった。
「じゃあ同じじゃないですか。キスしましょうよ」
「だ、駄目だ!同じじゃない!キスは‥‥永介に悪い!」
京子は昨日のように頑なに口づけを拒む。セックスのハードルよりもキスの方が高いなんて普通は逆じゃないかと思ってしまうが、許婚の関係である永介に最低限度は気を使っているらしい。
これでは昨日と同じだ。だが、総一だって何も学習しない訳ではない。そうくるならばこちらも切れるカードがある。
「じゃあ、俺とキスしてくれないなら当分はセックスはお預けってことで」
「なっ!?ず、ずるいぞ北森!それは卑怯だろ!」
目に見えて動揺する京子は、総一を卑怯だと言い放つ。
「どうしてですか?普通なら逆じゃないですか?」
今の関係では自分が優位なことを知っている。だから、自然とこちらから舵を取ることができる。ニヤつきながら、総一はそっと京子に詰め寄る。
「だ、だって!お前とは恋人でもないのにキスなんて‥‥そんなこと‥‥!」
「俺のこと信用してくれてるんじゃないですか?」
「それとこれとは話が別だ――んんぅっ!?」
京子が言い切る前に目の前まで詰め寄っていた総一は京子の唇を奪う。二人は一度重ねただけで不動のまま立ち尽くすする。女体育教師は、口づけをした瞬間に目を見開いたが、男子生徒をその場で突き飛ばすことはしない。二人の間に流れる数秒間の沈黙。その後、そっと総一が唇を離す。
「ぷはっ‥‥あれ、殴ったりしないんですね」
ビンタの一つは飛んでくると思って覚悟はしていた総一だったが、当の本人は顔を赤らめて睨んでくるだけだった。
「せ、生徒をぶつなんてできないだろ。ただでさえ、今のご時世は体罰に厳しいのに‥‥」
京子の世間の常識を説いた見当外れの答えに総一は目を丸くする。
「いや、単にキスを受け入れるってことは、俺とのキス自体が嫌ではなかったんだなぁって思って」
「!」
京子は反射的に総一の胸ぐらを掴むと、凄んだ表情で睨む。
「あ、やっぱり嫌でした?」
さすがに強引すぎたと胸中で反省する総一。だが、それは違った。京子は胸ぐらを掴んだ手をあっさりと放すと曇った表情で顔を震わせる。