杏奈と健 〜 献身 〜 -7
「まあ、普通に最後だよな。僕はいつも···」
そう呟きながら服を脱ぎ捨て、そのまま湯船に浸かった。
明日香との情事でシャワーを使い、しっかり身体は洗ってあったので、洗う気にならなかったのだ。
暫く風呂に浸かり、風呂から出た時だった。
洗面台に映った自分の姿を見て健は驚いた。
左の脇に赤い斑点があった。
明日香のヤツ···キスマークはつけるな、って言ってあるのに···
咄嗟に健は脱いだスーツを抱え二階の自分たちの部屋へ入り、慌ててスウェットに身を包んだ。
ヤベえ···2〜3日は杏奈とヤレないな。
いや、一日置けば大丈夫か?
どっちにしても今夜は無理だな。
そんな事を考えながら、健はリビングへ降り、再びさっき開けたビールを飲んでいた。
するとガヤガヤと杏奈たちが帰って来た。
「健。お帰りなさい。ゴメンなさいね。バタバタしちゃって。咲良も少し落ち着いたみたい。ちょっと寝かしつけてくるね。」
そう言って杏奈は咲良を抱いたまま二階へと上がって行った。
「ん?僕は大丈夫だよ。ありがと。」
杏奈の背中越しに健は労ったつもりで声をかけた。
「今日も遅かったのね。残業?」
母親が大変だったのよ、と言わんばかりに声をかけてくる。
父親はソファーに腰をかけ、夜のニュースを見入っていた。
「うん。まあね。荷物管理の手直しとか安全運行の見直しとかやらなきゃならない事いっぱいあってさ。定時ではなかなか帰れないんだよ。」
そう健が言うと
「そお···忙しいっていうのは有り難い事だって言うけど、アナタの会社は育休すら取らせて貰えないの?
今どき少し大きな企業ならどこでも男性でも育休くらい取れると思うけど···」
健はどこか母親の言葉に刺を感じ、少し苛ついていた。
「それを申請するかしないかは僕の判断だよ。入社して年越してやっと3年目の僕が今、そんな申請できると思う?覚えたばっかでみんなに迷惑かけながら仕事してるっていうのに。」
母親はその言葉を聞いて、少しオロオロしながら
「ごめなさい。そうだよね。ごめんなさいね。」
母親はそうただ謝るだけだった。
「もういいよ。咲良、あんな状態じゃ僕も部屋で寝らんないだろうから、リビングのソファーで寝るよ。父さん、悪いけど、テレビは自分たちの部屋で見てくれる?」
父親はそれを聞いて「おお、そうか。すまん、すまん。」と母親を連れ、自分たちの部屋へと入っていった。
健は昼寝用に畳んで置いてあった毛布を被り、テーブルの上にあったリモコンで明かりを消して目を閉じた。
少しして杏奈が二階から降りてきた音がしたが、リビングダイニングの電気が消えているのに気づき、杏奈は二階へと戻っていった。
健はそのまま眠りについていた。