杏奈と健 〜 献身 〜 -30
「父さん。お願い出来ますか?」
健はテーブルに両手を着き、素直に頭を下げた。
「こちらこそお願いするよ。健。頼むな。」
父親は安心したように笑みを浮かべた。
「健。来月からで良いか?会社もいきなり辞める訳にはいかんだろ?」
父親がそう聞くと
「はい。明日、辞職届け出して、来月からってことになると思います。」
健は改まった態度で答えた。
「家で他人行儀はやめろよ。気持ち悪い。」
そう言って父親は笑っていた。
「いえ。一応社長様ですから。」
健はそう笑って返した。
「一応かよ。」
その受け答えに全員の笑いが響いた。
杏奈のまわりにまた笑顔が戻っていた。