蹂躙-1
妻が出勤してそろそろ3時間が経とうとしている。お客の対応をしつつも時計を無意識にチラチラと見てしまう。予定通りなら妻は今頃ハジメ君と…。事務的に接客をしながらもテーブルの下ではスラックスを突き破らんばかりに勃起している。座ったまま態勢を変えるだけでパンツにヌルリと液が溢れ出した。
お客が帰ったあと、トイレに駆け込み竿を握っただけで射精した。虚しく水の流れを見ながら、蛍子は大丈夫なのだろうかと考えていた。
大丈夫とは?無事ということか?今更だろう。もう戻れやしない。妻がハジメ君に寝取られるのを望んでいたはずだ。そう、ハジメ君の常人離れしたペニスに突かれ、理性を削がれ、自ら求め腰を振る姿を望んだのだ。今更妻の安否を祈るなど、私がやっていいことじゃない。
こんな日に限って仕事は終わらない。いや、こんな日だから捗らなかったのだ。当然だ。
17時過ぎに妻に遅くなるとLINEを送ったが既読すらつかない。20時、何とか明日の準備までを終え、転びそうになる程はやる気持ちを押さえて帰路についた。
玄関を開けても生活音がしない。部屋は明るいが静かだ。いつもの幸せを感じる食卓の匂いもしない。
「蛍子ー?ただいまー帰ったよー」
情けない。平静を装ったふりをしても声が上ずる。
「おーい蛍子…」
蛍子はいた。リビングのソファーで俯せになって動かない。浅く弱く呼吸はしている。テレビもつけず、寝顔は血の気があるものの生気を感じられない。
「ん…アキ…ごめん寝てた」
肩を揺すると目を覚まし、わずかに姿勢を変えた。左の頬にソファーカバーの跡がついている。いつからそうしていたのかも分からないほど頬についた跡は深い。
「蛍子…だ、大丈夫?まだ体調が戻ってないんじゃないの?」
「うん…そうみたい…シャワーは浴びたからもう休ませてもらっていいかな…」
体調の問題じゃないことは見れば分かる。だが妻は私の誤魔化しに便乗し、疲労困憊の体を引きずって体調不良を演じた。
ゆっくり休みな、僕のことはいいからと言いながら私の心はそこにはなかった。
腹も空かない。寝室の扉が閉まった音を聞き、私は同時に脱衣所に急いだ。ショーツ、蛍子のショーツ、うわ言のように呟きながら洗濯かごを漁った。
蝶が羽を広げたような鮮やかな紐パンは、その軽やかなイメージとは裏腹に湿り気を帯び重みを感じた。触るとぬめりを感じる体液、乾きかけて部分的に硬くなったショーツの生地、妻が上気した時の甘い酸臭…。
「蛍子…蛍…」
崩れ落ちるように洗濯機に寄りかかり、スラックスの上からペニスを握りしめると、情けないほど薄い精液が漏れた。
妻は堕ちたのだ。
居てもたっても居られず、私は玄関を出て車の中でハジメ君に連絡を取った。
「あ…もしもし」
「も、もしもしハジメ君、あの今日さ」
私が言いかけるとハジメ君は遮るように、ありがとうございますと言った。
「今度いつお時間ありますか?データを渡したいのですが」
「1秒でも早く欲しいんだ」
「…じゃあ今近くまで行きます」
私が何かを言う前に通話は途切れ、私は事務所の前で待った。
30分も経たずハジメ君は来た。
データを私に手渡すと深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。奥様、頂きました」
「あぁああ、そう…みたいだね、うん、良かった。ありがとう」
何を言っているのか分からないほど動揺した。
「奥様の寝取りは完了しました」
「うん、本当にありがとう」
そこから何を話したかはっきりと思い出せない。ただハジメ君の中で作品が完成したのだと思った。
妻はそこからまた少し休養を取り、私は夜のうちに仕事の予定を変更し、データを受け取った翌々日、妻に出張と偽って隣町のホテルまで車を飛ばした。