巡らす策略、そして結論-2
奈莉は、一通り考えを巡らせたがもしそうなったらいずれにしてもやむを得ないと腹をくくった。こういう腹のくくり方は女にしかできない。奈莉は腹をくくって考え続けた。やはり夫の啓吾の子どもとして育てることがもっとも奈莉にとって合理的と思った。その合理的というのは奈莉の考え方の上であり、よその誰がそれを合理的というだろう。
しかし、奈莉にはそれしかないと思えた。あとは啓吾に自分の中に射精させる方法だけである。この間、熟年夫婦の性特集の雑誌記事を見たとき、夫をその気にさせる方法というので気になるものがいくつかあった。そうだ、そのいくつかを試してみよう、啓吾が他所で浮気をしている様子は無かった。せいぜい家でAVを観ているに過ぎない、そういう夫であることは奈莉にはわかっていた。
そうだ、やってやれないことは無い、そうしよう、と奈莉はいつになく元気が出て来ているのだった。
田中は別れるとき、来週の約束ともし妊娠したら責任をとるからということを語った。奈莉はその誠実さに田中への愛が胸に溢れるのを感じた。
電車を乗り継いで家に戻りついた。急いで先の雑誌に目を通した。その中に一度試してみる価値のありそうな方法が書いてあった。それは休日の朝の夫の朝勃ちを狙ったものだった。
男は歳をとってくると夜より朝の方が元気である、特に朝は男の性器は勢い良く立つものである、それはセックスのために立つわけではないがセックスをすることに何の問題もない、そのときにタイミングさえはかれれば男は我慢の出来ないものである、女が矢継ぎ早にその勢いを利用しようとすれば比較的難なく夫の性器を自分の性器に挿入させてしまうことが出来る、そして女がセックスをコントロールすれば望む妊娠を得ることも可能である、という趣旨の記事だった。
これしかない、次の週末にタイミングを見て試してみよう、と奈莉は細かい配慮まで含めて夫の啓吾をコントロールしようとする策略を練りに練った。
その週末を明日に控えた金曜日の夜、突然奈莉に生理がやってきた。普段より一週間以上早い生理だった。こんなに早くやってくるとは思わなかった。田中にもらった時、ちょうど排卵に来るタイミングだと思っていた。だからこそ生涯で初めてあんなに燃え尽きたセックスをできたのだと思っていた。
奈莉は意気込んでいただけに拍子抜けしたようにへたり込んでしまった。その晩夕食など啓吾へはたっぷりサービスして明日の朝に備えようと思っていた準備もそこそこに最低限のことをした後、ベッドへ直行してぐっすり眠ることにした。
あくる朝の奈莉の目覚めは良かった。
明るい朝の日を浴びながら、ふと思うと少し寂しい気持ちが奈莉を取り巻いていた。せっかく策略も巡らし、田中の子どもを産もうと決心して意気込んでいたのに、妊娠していなかった。安心してもいいはずなのに、この寂しさは何だろう?どうしてだろう?子供たちや夫の啓吾がまだすやすやと休日の朝の光の中で奈莉は思い続けた。奈莉はやっぱり田中の子どもが欲しかった。田中と奈莉の愛の証が欲しかったのだ。それは思い出やプレゼントなんかでもない二人の愛の証、他にどんなものがあるだろう?心から愛し合う男と女にとっての愛の証、それは子どもしかないのではないか、田中の子どもを産む、それは何より奈莉にとって尊い愛の証ではないか、その強い思いが週末の奈莉を捉えて離さくなっていった。
奈莉は、決めた。
田中との愛の絆はこれからもずっと紡いでいく、田中の愛は全てをもらう、受け止める、避妊はしない、だからいつか妊娠するだろう、いや妊娠したい、田中の子どもが欲しい、大好きな田中の種を心から身籠りたい、そしてその子を産み大切に育てたい、きっとそうする、きっとそうなる絶対に、、、、
週末の買い物をしながら奈莉の心は決まったのだった。
そして、啓吾には自分の子どもとして、家族として育ててもらう。今いる二人の女の子にとって父親を変えることは大きな罪だ、絶対にしない、そのためには啓吾にもセックスをしてもらわなければならない、その方法はある、啓吾は子育ての同士だ、大切にしなければならない、家では心から尽くそう、そしてセックスをしてもらおう。