第25話 封手(ふうじて)-1
「ぁあ熱ッ!!」
必死の我慢でテーブルにゆっくりとカップを置くやいなや、亮介は蛇口へ走り勢いよく水流に手を当てる。
「だ、大丈夫? 早く冷やさないと!」
「う、うん、あの、3人って、まさか一樹と3Pって、いや3人でするってこと?」
ヤケドか3Pか、どっちが原因かわからないが興奮している亮介の横に、綾乃が床に目を落としながら立っている。
「……ねぇ、亮介くんはしたことあるの、それ?」
「無い無い無い無い、あるわきゃない! え……、まさか一樹は経験有るって?」
「無いんだって……。私ももちろん無いよ……」
◆
「ごめんね、あたし変なタイミングで言っちゃった」
「いやいや、大丈夫大丈夫。しかし驚いたね……」
そう言って、亮介はまだ赤い指でカップの把手を握ってコーヒーを啜る。
「一樹、他に何か言ってた? 3Pについてだけじゃなくて」
「ぁ……、ちょっと命令……されちゃった」
「命令? これもエッチなことでしょ、どうせ」
眉間に皺を寄せてあえて大袈裟に意地悪な表情を作る亮介。ちょっと吹き出した綾乃だったが、顔は赤い。
「あのね……、なんかあたしドMらしいの。一樹が言うには」
(だろうね)
と亮介は心の中で言う。
「それで、命令というか指令というか、酷いことばっかりさせるんだよね」
「例えば?」
「いろいろ……ね。ちょっと! 恥ずかしい!」
両手を顔の横でひらひらさせる綾乃。
「でも、気持ちいいんでしょ?」
(――!!)
言葉が出てこず、苦笑いしかできない綾乃。
「で、今日の命令は何?」
「さっき空港まで、送っていったんだけど」
「うんうん」
「おうちからずっと、下着……つけちゃダメだって」
「……今も?」
「……うん」
「そのまま亮介くんとこに行け……って」
これが何を意味するのか。
考えてみたら、貸し出し指令メール以来一樹からメールも電話ももらっていない。それ以来やり取りは全て綾乃さん経由だ。しかも今日は直接の訪問。
「現地には何時に着くって言ってた?」
「えっとね、こっちの時間で昼の3時半頃って言ってた」
「そっか。じゃ、時間たくさんあるね……。綾乃さん、ちょっとそこに立ってもらえる?」
「え……、あ、うん」
カーテンが閉まっている|掃き出し窓の前に綾乃がまっすぐ立つ。亮介は、棚にあるコンパクトデジタルカメラを持つ。
「もうちょい右に寄れる? うん、そう」
「なになに、撮ってくれるの?」
ニコニコしながら綾乃が言う。
「綾乃さん、両手でスカートを左右に広げながら肩ぐらいまで上げてもらえる?」
「……ダメ! そんなの、丸見えになっちゃうじゃない……」
微笑んで目を合わせたまま、左右にゆっくりと顔を振る亮介。
何かを悟り、諦めた綾乃は無言になり、頭だけを徐々に自分の足元に落としながら目を閉じる。
まるで、舞台の幕開けのようにフレアスカートが上がっていく。
ナチュラルベージュのパンスト。その、腿の付け根周辺は乱雑に裁断されていて、綾乃の陰毛が|露わになっていた。