第23話 寝取り合い、寝取られ合い-1
「もしかして……」
亮介は電話を耳に当てたまま歩みを止め、後ろを振り返る。一階から数えて下から5番目、角部屋。部屋の灯りはついていて、なんとなく人影が見える。
「綾乃さん、もしかして窓際で……」
「あ……ぁ、亮介くん……あたしたち……見える……のね……ぁ、ぁん」
綾乃は窓に手をかけ、一樹に立ちバックで突かれている。暗い夜道にいる亮介を二人は見ることはできないだろうが、見せつけることはできるわけだ。
「綾乃さん……見えるよ、見える」
「……嬉しい……ぁ、ぁ、ぁ、ぁ・ぁ・ぁあ、あああぁん、一樹すごい、激しい、ぁ、ぁ、ぁ、」
二人の会話を聞いて刺激を受けた一樹は、より強く腰を打ちつける。綾乃は朝から数えて6回目のファック。そして、二人目の男に抱かれていることになる。
「亮……介……くん……今日……うぅ……」
「え、なに?」
綾乃の声がにわかに低く、うめき声のようになる――昇天前の兆候だ。
「今日……素敵……だったわ……あ、あああぁッ、いや、すごい、一樹、ぁあ、許して! あんあんあんあん、ぁああん、イイッ! イイッ! イ」
通話は突然切られた。亮介はそのまま、部屋を見つめて動けないでいる。
(俺の奥さんじゃないのに……取られた気がする……)
肺と胃の中間あたり。ドクドクと鳴る心臓の裏らへんか。黒いタールのような、重々しくドロっとしたゲル状の何かが湧出しているような感触を亮介は覚える。小さい頃に似たような体験をしたような記憶がうっすらと、なんとなくある気がする。嫉妬していることだけは確かだ。
501号室の灯りが、フッと消える。
亮介は、客電が点いたのに席を立とうとしないオーディエンスのように立ち尽くしていた。
◆
しとしとと降る秋雨の日曜日。瞼を開けた亮介の目の前には壁のコンセント。再び目を閉じる。ベッドの上で舞う綾乃が脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消えた。
「綾乃さん……抱きたい……」
流れ落ちはしないほどの涙を両目にたたえ、亮介は自らを慰め始める。綾乃の声、姿、香り、味――。
「ぁあ、綾乃さん――! イクよ、いっていいよね? ぁあ……綾乃さん」
さっきまで感じなかった重力が体を布団に押し付けた。亮介は、今日何度目かわからない二度寝に入りながら、綾乃とのドライブを思い出していた。