第20話 寝取りは加害者? 寝取られは被害者?-1
敗北感ではない。むしろポジティブな感情。達成感に近いのではないだろうか。綾乃がもう以前の綾乃ではなくなってしまったような、そんな変化を見せた。もちろん穏やかで優しい人当たりや美しく靡く胸元までの長い髪はそのまま変わらない。
風呂場からゴン、ゴンという音や綾乃の笑い声が聞こえてくる。
(さっき亮介は果てたばかりだから、さすがにまだ復活はしていないだろう。楽しく戯れてればいいさ)
ダイニングテーブルに残された形の一樹。食事も酒も進まないのは胸がいっぱいだからだ。
思えば酷い一日だった。
わからない人からすると地獄そのものだろう。しかし、今の一樹には最高に甘美で艶やかな一日だった。一樹は自分でも気づかないレベルの変態性を帯びてしまったわけだが、そのことを二人は察知してくれたばかりか、一樹の喜ぶことは何かを考え、実行してくれたのだ。感謝しかない。振替ってみれば、倦怠期が本当にあったのかさえ怪しいほど日常に潤いが生まれた。
とにかく綾乃を抱きたい。
めちゃくちゃに、壊してしまいたい。
思い切り号泣させてしまいたい。
愛して愛して愛し倒したい。
◆
察したかのように亮介が風呂から帰ってきた。
「綾乃さんが呼んでる。一緒に入ろう、って」
無言で|頷き《うなずき》、大股で浴室へ向かう一樹の背中を亮介は親心にも近い気持ちと、ちょっとした寂寥感を覚えながら見送った。
◆
亮介が髪を乾かし終えてテーブルの上の片付けをしていると風呂から上がった二人に見つかる。
「あ、もうそんなのいいからいいから」
「亮介くんごめんね、お客さんにそんなことさせてしまって」
「大丈夫、簡単にしかしてないから。あ、乾き物ぐらいはそのまま出しておこうか」
「そうだね。ビール出そうか?」
「あ、いや俺はもう帰るよ」
普段の3人の会話に戻ったのも束の間だった。
「だめ。まだいて欲しいんだ」
「いや……でも、そろそろ二人の時間でしょ?」
「うん。それはそうなんだが、二人の時間を見てもらいたいんだよ、お前に」
誤解を恐れず表現すると、寝取りは加害者、寝取られは被害者ということになるだろうか。一樹はここから加害者の役になりたいという。
「俺は寝取られ趣味じゃないのになぁ」
わざと棒読みで亮介が言う。綾乃が微笑む。
「よし、決まりだね!」
一樹がいつもの調子に戻ったように見えた。