第17話 翻弄に次ぐ翻弄-1
PM14:47――。何回二人の電話に掛け直したかわからなくなってきた頃、突如綾乃から着信。意識は長時間追いかけモードだったが、一転して追いかけられる形になると気が動転してしまって一瞬固まる一樹。やっとのことでボタンを押すと、普段通りの綾乃の声が聞こえてくる。
「一樹……今なにしてるの?」
「なにしてるって、なんで今まで電源オフってたんだよ。心配しただろ。それに俺」
遮るように綾乃が呼びかける。
「ごめんね……ところで、今どこにいると思う?」
「え…………?」
「駅の北口の、よく行くラーメン屋さんあるでしょ。……そこに行くまでの細い方の道……わかる?」
「う、うん……。それがどうしたの?」
「ラブホテルが……あるの」
「え……それって……」
「あん、あ、ごめん……そうなの……」
「今、何してんの!?」
「指……入れられてる」
着の身着のまま、一樹はサンダルを突っかけてドアの鍵を締める。
エレベーターのボタンを連打。
液晶画面は3階から下っていると示している。
(――遅い、遅すぎる)
(そういや充電ヤバい、いつまでもつかもわからない)
「今行く! 何号室なの!?」
「来てくれるの……? あん、あぁ……いやん、そんなの……」
亮介の攻め方が変わったのか、綾乃の声も少し大きくなった。
(ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……)
駅のエスカレーターを1段飛ばしで駆け上がり、
一気に北口のペデストリアンデッキに達する。
涼しくなってきたこの季節でも、激しい動きをすれば汗だくになる。
「501号室……だって……ぁああん……」
(ふざけてる、うちと同じ部屋番号じゃないか)
夜はケバケバしい明かりが煌々としている雑居ビル通りだが、昼はほとんどの店はシャッターを下ろしている。人の往来も少なくむしろ閑静な休日の午後、ゴムソールがアスファルトを叩く音が響く。
ホテルのロビーへ入った瞬間に気づく。部屋番号を知ったところで何ができるっていうのか。部屋の選択パネルの501号室は確かに消灯している。ここにあの二人がいる。それを確認するためだけに一樹は必死でダッシュしてきたわけじゃないのに。携帯のバッテリーはまたしてもゼロ。
「と、とにかく充電……充電しなきゃ」
そこから一番近いコンビニのファミリーマートに駆け込む。乾電池タイプの充電器を探す。
(文房具……香典袋……白熱球……あった!)
レジに向かって踵《きびす》を返した瞬間、一樹は背筋に冷たいものを感じた。財布を持ってきていないのだ。情けなくて膝から落ちそうになる。
「何をやってんだ俺は!」
意図せず声に出してしまった恥ずかしさから、商品を棚に戻すとスタスタと急ぎ足で店の出口へ向かった。