第6話 臨んだ絶望の淵-1
「こんなのダメ……許して……ぁ……ああ――」
綾乃は、懇願するような、半泣きしているような低い声を絞り出して空気を震わせる。やがてトーンは高くなっていき、鳥のさえずりのような啼き声に変わる。
「あん、あん、あん、あん……」
一樹は呆然としていた。綾乃が亮介の顔に跨った状態でこっちを見ていたからだ。
顔面騎乗――。
一樹は経験したことがあるが綾乃に試したことはまだ無い。綾乃の両手首は亮介に握られて自由を奪われているのがいやらしさを引き立てている。逆光が綾乃の体のアウトラインをくっきりとさせる。それはまるで後光が射しているかのようだった。
亮介は綾乃の秘部を丁寧に、時に荒々しく舌で辿っている。恐らく未開発と思われるアナルもノックしてあげると、綾乃は(ヒッ……)と反応する。窒息しないで済んでいるのは、綾乃が恥ずかしさのあまり腰を少し浮かしていて隙間が出来ているからだ。本来なら男の顔に無遠慮に股間を密着させ、思うままに擦り付けるようなプレイなのだが。
(それも時間の問題だろう)
そんなことを目論みながら亮介は綾乃の豊満な尻肉を両手で拡げ、微かな舌使いで軽い刺激を与え続けた。
◆
(こんなお行儀が悪いことさせられてる――。)
世に言うお嬢様育ちである綾乃。昼の生活と同様に夜もお淑やかに過ごしてきた。幸か不幸か、一樹も常識的なスタイルだからコンベンショナルなプレイ以外はほとんど経験がない。そもそも、知識がないのだ。
「すごく……恥ずかしい……あんっ」
舐められたことが無いわけじゃない。でも、
男性の顔の上に自分の全てを曝け出すなんて。
自分の両膝で体を支えながら快感に震えるなんて。
綾乃はこんな破廉恥な愛され方を知らなかった。
(亮介君に両腕を掴まれたの、キュンってした)
(動けなくするなんてひどい。ひどいのに、ドキドキしてしまう)
(もしかして……今お尻の穴を舐められた……?)
(一樹にこんな恥ずかしい姿を見られてる……)
拘束感と羞恥心が、綾乃の閉ざされていた扉の一つを開けた瞬間だった。
亮介のセックスは優しい。それとは裏腹に少し意地悪でサディスティックな面が綾乃には抗いがたい刺激となる。一樹に対する背徳感がそれを増幅する。
「ちょっと……もうあたし……ダメ……」
綾乃が前のめりに体を倒し、両手をつく。ちょうど69の体勢だ。膝立ちするのに疲れたということもあるのだろうが、押し寄せる快感に負けてしまったというところか。ちょっと休みたい気分の綾乃だったが、その後ろ髪を亮介が少し乱暴に|掴む《つかむ》。もう一方の手で亮介は自分のパンツを脱がし、屹立した男根を露わにする。
◆
その瞬間、襖を挟んだ一樹と綾乃夫婦は少しのズレもなく同時に息を呑む。
数秒の静寂――。
瞳を閉じた綾乃は、右手数本の指を亮介のペニスの根元に添えながら優しく口に含んだ。