第4話 2人+1人の世界-1
亮介にしてみれば降って湧いたような話だ。実の夫の――それも親友だ――面前でセックスをするという言い知れない不安はあるものの、憧れにも似た感情を持っていた人妻を抱くことができるなんて。それも夫に請われて、だ。
「おいで……」
両手を広げて迎え入れる。(恥ずかしい)と言ったか言わないかのうちに胸に飛び込んできた綾乃の腰と肩に、亮介は恐る恐る腕を添わせる。不思議なことに初めて抱き合った感じがしなかった。それはこれまで亮介の脳内で何度もしてきた妄想のおかげだったのかもしれない。
「なんか、すごく嬉しい……」
「そんな、照れちゃうよ……」
一樹に見られている手前、あまり饒舌にはなれなかった。そもそも、凝視されている状態でベラベラと口上できる方が異常だ。それでも自然と言葉が紡ぎ出されてしまう。想いが喉を通ってじわじわと溢れてくる。
「綾乃さん素敵だなって、ずっと思ってた」
「え……?」
驚きを隠せずに固まった綾乃を今度はぎゅっと抱きしめる。逃がさない、そんな意思さえ感じさせる力強さとは裏腹に、亮介は優しくそっと口づけをする。十秒ほど経ってから、綾乃の背中が弛緩し、首の力もすっと抜けていく。粘膜同士の微かな摩擦運動から、舌と舌の追いかけっこに移行すると、そんな音が隣室の一樹の耳にも届くようになる。
「……ぅ……ん……」
亮介の肘から二の腕にかけてを綾乃の手が這う。次第に二人は身体全体を絡ませ合うようになり、密着度は高まっていく。もう二人には一樹が見つめていることを考える余裕は無く、目の前の相手にそれぞれが集中し始めている。
亮介は綾乃のサックスブルーのカーディガンの襟を優しく掴み、素早く剥ぎ取った。自らも、上半身を裸にさせた。お互いが下着姿になるのにそう時間はかからなかった。二人はまるで別れを惜しむ遠距離恋愛のカップルのように寸暇を惜しんで唇を合わせた。
両手の指先10本の爪先が、綾乃のフルバックの下着に包まれた尻全体を軽く擦るように円弧を描く。
「あんっ……」
軽い悲鳴のような声とともに、綾乃の腰がビクついた。亮介は、今この瞬間の尊さやありがたみを一生忘れないだろうと思った。ずっと目をつぶっていたことに気がつき、瞼を上げると潤んだ綾乃の瞳が飛び込んでくる。薄明かりの中、いつくしむような表情をたたえる綾乃。亮介はゆっくりと、大切そうに彼女を布団に横たえた。