たくさんの好意-5
野球部の最後の大会が始まるまであと1ヶ月を切った頃。ピッチャーの健斗は怖いぐらいに絶好調であった。ここに来て球速がグッと増し、安定的に120キロ出るようになり、たまに130キロを記録する事もあった。併せてバッティングも好調。打球が鋭くなり飛距離も伸びた。最後の大会はせいぜい3回戦か4回戦ぐらいまでだろうとみんなが思っていたが、ここに来ての健斗の好調ぶりに、もしかしたらもっと上に行けるのではないかと期待が膨らんで来たところだ。
健斗は特に走り込みを増やした訳でも筋トレを増やした訳ではない。練習はいつもと変わらなかった。だが自分でも好調ぶりは感じていた。
(これ、絶対姉貴とセックスしまくってるから腰が強くなったんだよな!)
腰は使いまくっている。それが運良く野球に生かされるとは嬉しい副産物だ。健斗は日菜に感謝した。
一方ここに来て絶不調なのがバッテリーを組む親友秋山だ。秋山は4番を打つチームの大黒柱だ。普通なら健斗がいくら絶好調だとしても秋山のバッティングには到底敵わないぐらいの実力があるし、県内の強豪高校から視察が来るぐらいの実力者だ。そんか秋山がどうも最近精彩を欠いていた。
大会に向け最後の練習試合。ここでも秋山は精彩を欠いた。この日練習試合を観に日菜と優香が来ていた。その優香は少し驚いた。
「もしかしてこの女子達…、みんな健斗君目当て…?」
初めはただのギャラリーだと思っていたが、様子を見ていると健斗の一挙一動にキャーキャー言っている事に気付く。
「全部じゃないんだろうけど、結構いるみたいね…。(健斗、こんなにモテるんだ…)」
何を隠そう日菜が1番驚いた。こんなにたくさんの健斗ファンを実際見るのは初めてだったからだ。姉として誇らしい事ではあるが、何となく歓迎したくない自分に気付く。
試合が始まると健斗への黄色い声がグラウンドに響く。そんな声に浮き足立つ事なく素晴らしいピッチングを見せる健斗は3番の打順でセンターオーバーのツーベースヒットを放つ。そして4番秋山の順だ。守備では何度か健斗の球を取り損ねるシーンがあったが、打席でもせっかくのチャンスに内野フライに終わってしまう。
「せっかく健斗君が頑張ってるのにあの人、足引っ張ってなーい??」
ある女子がそんな事を口にした。健斗からは、秋山は凄い選手だと聞いている。その秋山の覇気のない姿が気になってしまう。健斗の親友だ、日菜は冴えない様子の秋山をついつい心配してしまう。