《魔王のウツワ・3》-1
「…本当に来るんでしょうか?」
姫野が問い掛けた。
「…遅いですよね…何かあったんじゃ…」
今日からあのバカが此所で飯を食うとか言い出したのに、昼休みが始まって、すでに30分が経過した。
俺と姫野はすでに食べ終わっている。
「…多分来るな」
だが、あのバカは面白いことに首を突っ込みたがる性質を持っている…
多分、その内…
「すまんなァ!ガガに捕まってもうてなァ。もう、大変やったわァ…」
ほらな…
ガガというのは、七之丞のクラスの担任である加賀の渾名だ。
由来は酷い濁声で、自己紹介をしたときに加賀が、ガガに聞こえたからだそうだ。
その渾名を広めた奴は言うまでもない…
「もう…ガガの野郎…ガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミと…ああ、腹立つ!!」
七之丞はガミガミを何度も繰り返し、ポケットから煙草を取り出した。
「ストレス溜まるわァ!もう、わいの胃なんてボロボロやちゅうねん!」
銘柄はLARK。
七之丞はマッチを擦り、シュッと火を着けた。
七之丞曰く、ライターよりマッチの火で吸った方が美味いらしい。
「あっ…すまんな」
マッチの火が移った煙草を口から外すと、クシャッと手で握り潰した。
軽く焦げる音がした。
「…あ、熱くないですか?」
姫野はこんなバカにも優しい。
「別に大丈夫や。この方がカッコええやろ?何や心配してくれんのかいなァ!優しいなァ、ヒメは♪どっかの鉄面皮魔王とは大違いや♪」
矢継ぎ早に喋ると俺の方をチラッと横目で見た。
「煩い」
「あの…私…別に煙草平気です…吸わない方がいいとは思いますけど…」
「わい、女の前では吸わんて決めてるから♪」
微妙な信念を持ってやがる…
「ウゥゥゥ!」
ノワールが膝の中で唸る。余程、七之丞が嫌いなんだろう。
「落ち着け」
ノワールの喉を撫でてやる。一転してゴロゴロと気持ち良さそうに鳴いた。
「で、ヒメは魔王のコレか?」
七之丞はピンッと小指を立てた。
「えっ…あ、あの…わ、私と…う、鬱輪さんは…その…」
姫野は少し頬を染めながら、あたふたとし始めた。