《魔王のウツワ・3》-7
「大丈夫か?姫野」
「…はい…大丈夫…です…」
息は荒く、青ざめた顔をしている。相当怖かったのだろう…
歩くのもままならず、フラフラとしている。
「…乗れ」
姫野の前に背を向けて立ち、膝を付く。
「えっ…」
「…今のままじゃ危ない。嫌かも知れないけど、乗った方がいい」
「せやで。このままやと事故に遭いそうや。強盗に会って、事故にも遭ったなんて、シャレにならんわ」
姫野は少し迷った後、俺の背中に身体を預けた。
「すまない、足触るぞ」
「大丈夫です…ありがとうございます…」
立ち上がるのは簡単だった。姫野の華奢な身体はとても軽かった。
その柔らかな感触と長い髪から香るふわりとした甘い匂いに心臓がスピードを上げ始める…
「…お、送っていこう」
「ありがとうございます…すぐに近くですから…ご迷惑をお掛けします…すいません…」
「ヒメは謝ること無いで。わいらは被害者なんやから」
「七之丞、ノワールを頼む」
「ええぇ!わい?わい、コイツに嫌われてんねんぞ!」
「俺は見ての通りだ」
「ずるいなァ…」
渋々ながら、七之丞はノワールの入ってバッグを持った。ノワールの方も少し暴れたが、仕方ないと思ったのかすぐに静かになった。
※※※
姫野の言う通り、家までは時間が掛からなかったが、日はすでに沈む直前で、名残惜しそうに街をオレンジに染めている。
「すいません…ご迷惑をお掛けしました…」
「ええて♪」
「ああ、姫野に怪我が無くてよかった」
姫野の家は俺ん家と似た様なマンションだった。
まあ…俺ん家の方が断然ボロいが…
「じゃあな、また明日」
「あ、あの…助けてくれてありがとうございました」
姫野は俯きながらお礼を言った。顔には少し朱が射している。
「あ、ああ…」
やはり、お礼はむず痒い…
「ほな♪」
「…じゃあな」
照れくささを隠す為、姫野の家を離れた。
※※※
「いやぁ、強盗てほんまにおるもんやなァ…」
薄暗い道に七之丞の明るい声が響く。
「七之丞…」
「何や?」
「お前はバカだが…人を殺す様な莫迦じゃないと思ってる…」
七之丞の片目が標準サイズになる。