《魔王のウツワ・3》-6
「ええか、ヒメ!ただのゲームと侮ったらあかん!見とき、十数年後には仮想現実のリアルなゲームが出来てるはずや!」
七之丞が豪語したその時、自動ドアが開き、サングラスとマスクの男が入ってきた。
「なんや…強盗みたいやな…」
七之丞が一人ごちた。
すると男は、バックから包丁を取り出し、店員に向けた。
「あ、あれって…」
姫野が怯えながら引きつった声を出した。
「あちゃあ…本物かい…」
「…大人しくしてれば大丈夫だ」
青ざめた店員は素直にレジを開け、金を取り出した。
此所には悪いが、コイツがさっさと逃げてくれれば…
しかし、事態は微妙な方向へ流れた。
赤いランプが窓の外に見える。
犯人がもたついた為か、それとも誰かが通報したのか、警察が予想以上に早く着いてしまったのだ。
「くそッ…」
強盗が低く呻いた。マスクをしている為、くぐもった声だ。
「おい!そこの女!こっちに来い!」
この店に女は姫野しかいない。
「ヒメを人質にするつもりか!」
隣りで七之丞が吠えた。
姫野を背後に庇い、俺も身構える。
「五月蠅い!退けェ!」
強盗は包丁を振りかざした。一瞬、七之丞の目に剣呑な光が宿ったが…
「すんまへーん!」
両手に上げた。逆らう意思が無いと示す。
だが、俺だけが気付いた。七之丞が手を上げる前にポケットから何かを取り出し、袖に隠したということを…
後ろで姫野が身動ぎ出来ずにいる。出口は無し。
鞄の中でノワールが低く唸っている。
大人しく、姫野を引き渡すべきか…いや、コイツが姫野に危害を加えないとも限らない。
それ以前に、姫野を危ない目に遭わせたくない…
強盗と目を合わる。
相手はたじろぐが、包丁を下ろす気は無いらしい。
そのまま視線を合わせ、ゆっくりと窓の外に向ける。
つられて強盗の顔が僅かに動く。ほんの一瞬、隙が出来る。
地を蹴った。一歩で強盗との距離を詰め、拳を堅く、強く握り締める。
強盗が驚いて顔を戻した。だが、俺の右手が顔を捕らえる方が早い。
破砕の衝撃が手に伝わる。強盗は白目を剥き、敢え無く気絶した。
「…行こう」
「せやな」
姫野を促し、コンビニを後にする。俺も七之丞も厄介事には巻き込まれたくない。
警察から少しだけ話を聞かれた。姫野はまだ震えているし、俺だと相手がたじろぐ為、七之丞が状況を説明した。