幸子と詩織の会話-1
幸子がベッドの中で泣き疲れて
ぼーっとしていると部屋の扉をノックする音が聞こえる
「あ はーい」
「ゆきちゃん 詩織だけど…入ってもいい?」
「え? しおりちゃん?」
(どうして こんな時間に??)
「ちょっと待ってね」
「うん」
幸子はあわててそばに置いてあった
紺色のカーディガンを着て
扉を開けて詩織を招き入れる
詩織は幸子の顔を見て
「顔色もよくないし 泣いてた?」
「え? あ…うん 泣いてた
それでどうして しおりちゃんいるの?」
「あ 学校の宿題とわたされたプリントを持ってきたの」
「ありがとう こんな時間…ひとりで?」
「ううん くみこちゃんのお母さんに
車頼んで…」
詩織が少し言いづらそうにしながら答えるのをみて
幸子は顔をくもらせながら
「くみこちゃんも来てるよね?」
「…やっぱり、気になる?」
「それは…うん」
「くみこちゃんにおさむくんとられるのがいや?」
「…いや」
「そっか…」
幸子の返事といやそうな表情に
詩織は困ったような表情になってしまう
「おじちゃんのところにいるよね?」
「うん」
幸子の問いかけに正直に答えたあと
詩織は続けて話す
「わたしもくみこちゃんもゆいちゃんも
今日 おさむくん 何も食べてないこと予想していて
くる前にわたしの料理の練習のために作ったパスタを
持ってきてるからくみこちゃん食べさせてると思う」
詩織の言葉に幸子は
よりいっそう悲しい顔になりながら
「わたしのせい…おじちゃん 朝も昼も食べてなかった」
「やっぱり…食べてないのね はぁ…」
予想どおりと思いながらため息をついてしまう詩織
「おじちゃん ちゃんと食べるよね?」
不安になる幸子を見て
にこっとほほえみながら
「だいじょうぶでしょ くみこちゃんが食べさせるんだから
嫌がることもないと思うよ
ゆきちゃんはいやかもしれないけど」
「そうだね くみこちゃんが食べさせるなら食べるね
ごめんなさい」
「自覚はしてるのね?」
「それは…うん 嫌われちゃったかもしれない」
そう言いながら泣き出してしまう幸子に
どうしたらいいのかわからないまま幸子を見つつ
ポケットに入ってあるハンカチを幸子にわたす
「ゆきちゃん しばらく離れよう?
頭冷やさないとますます悪い方向にいくよ?」
「うん LINEも未読のままだし…ひっく」
「おさむくんに注意しておくから」
「ありがと しおりちゃん」
幸子が落ち着くまで待って落ち着いたのを見てから
「落ち着いた?」
「うん」
「じゃ、プリントはそのままわたすとして
宿題と今日のノート…ノートは携帯で写真とった方が早いよね?」
「うん わたしの携帯で写真とるから…」
幸子は詩織のノートを携帯で写真を撮りつつ
宿題の箇所を詩織に教えて貰いながらメモをとっていく
あらかた終わると
詩織は幸子に
「明日も休む?」
「気持ち的にまだ…」
「わかった 明日もノートとか持ってくるから」
「ごめんなさい ありがとう」
「おさむくんのこと 少しわすれて」
「それは むずかしいかな」
「そっか あまり思い詰めないようにしてね」
(しおりちゃんもさゆりちゃんも
おじちゃんのこと好きなのに独占したいとか
思わないみたいだよね それに比べて わたしって…)
「しおりちゃんは おじちゃんのこと独占したくないの?」
「え? わたし? うーん
独占したら暴走するでしょ?」
「それは…うん いや…」
「だからわたしはゆいちゃんと同じ考えかな?」
「わたしやおばさんが暴走するから?」
「おさむくんもわたしとさゆりちゃんを受け入れてくれたし
ゆいちゃんとくみこちゃんだけでいいって
思っているのは知ってるけど
それでもわたしたちも受け入れてくれてるから
今はそれでいいかなって思うね」
(ゆいちゃんとくみこちゃんがいてくれたらいいって
確かに おじちゃんはそう思っているよね
でも、わたしが怖いから…いじめられるのがいやだから
拒否してなかったのに
それでもわたしが怒ったりして…
結局 わたし 嫌われちゃったよね)
「それなのに わたしはわたしだけにって…」
再びうつむきながら泣き出してしまう幸子を見て
幸子を抱きながらしばらく寄り添う詩織だった