杏奈の気持ち 〜 秋陽 〜 杏奈と健-51
アタシは目に射し込む鋭い陽の光で目が覚めました。
それは部屋のカーテンの隙間から射し込んでいました。
眩しさに眠気から急に起こされた気怠さに微睡みながら、お布団にもう一度潜り込むと、目の前に健の寝顔がありました。
思わず健の顔をマジマジと覗き込みます。
奥二重なのに長いまつ毛を見て、幼い頃に一緒にお昼寝していた事を思い出していました。
あの頃と変わらない無邪気な寝顔が可愛くて、思わず唇を指で弾くようにプルンプルンしていました。
あの頃もそうだったけど、やっぱり今でもこの程度じゃ起きないんだ···
一度寝ると、何があってもほとんど目を覚まさないよね···
そんな事を考えた後、昨日一日かけて愛し合った事を思い出していました。
健の熱い抱擁。
狂おしいほどの口吻。
荒々しさを感じた健との繋がり。
そして乱れた自分の姿。
お互いの想いがすれ違い、長かった片想い。
それがたった一日で全てが変わった。
アタシたちは想いを重ねる事が出来た。
そんな熱い想いが蘇ります。
「幸せ」なんて軽い一言では言い表せない気持ちがそこにありました。
スヤスヤと眠る健の姿を見ていると、それが現実感を伴って、アタシを満たしていきました。
アタシは布団に潜りながら、健の顔をずっと見つめ、そんな幸福感に満たされていました。
ふと気づきました。
そういえば、アタシ泥のように眠っていたけど、今何時なんだろ?
ちょっと待って。
この角度で陽が射すって···
かなり太陽は高い位置にあると思いました。
アタシは平日、大学へ行く時はスマホのアラームを使ってましたが、いつもアラームが鳴る前には目が覚めていましたし、休日でもいつも8時前には起きていたので、そのくらいの時間かな?と思っていましたが、どうも様子が違う。
えっ?
今、何時?と壁に掛かっている時計に目をやった瞬間に固まりました。
「アーッッ!」
思わず大声を出して飛び起きました。
時計は10時15分を指していました。
ヤバいっ!
お昼には両親が帰って来る!
健はアタシの大声にも寝返りを打つだけで起きようともしません。
アタシはカーテンを開けながら大きな声で叫びました。
「健!ヤバいよ!」
カーテンを開けるとかなり高い位置にお日様が見えました。
「ああ〜ん!完全に寝過ごしたっ!」
「お父さんたち、お昼には帰ってくるよ!早く!」
健はやっと目が覚め、アタシの言葉に驚き、飛び起きます。
「うぅわ!ヤバッ!」
健の声を背に、アタシは裸のまま部屋を飛び出しました。
「早くっ!シャワー浴びるよっ!」
健に早く来るように促しました。
アタシはバタバタと階段を駆け降り、お風呂場へ飛び込みます。
すぐにシャワーを出し、頭から被りました。
暫くすると健も駆け込んで来たので、健にも頭からシャワーを浴びせました。
シャワーを戻すとシャンプーで頭をサッと泡立たせ、ボディソープを手に取って、それもサササッと泡立てます。
健も手早く泡立っていたので、急いでシャワーで泡を流し落とし、そそくさとお風呂場から出て、昨夜洗濯した洗濯機から乾いたバスタオルを取り出し、健へ投げつけます。
そして自分のバスタオルを取り出して、後の洗濯物を洗濯籠に詰めると、自分の身体を拭き上げました。
身体を拭き終わったら、ドライヤーをターボモードにして、急いで乾燥させます。
健はまだ寝惚けているのか、ボーっと立っているので、ドライヤーをかけ終わったアタシは、クルクルっとコードを巻き取り、元あった場所へ置くと、健の手を取り二階へと駆け上がりました。
「早く着替えて来てね!」と健に言うと、バタン!と大きな音がするほど部屋のドアを閉めて部屋へ入り、急いでヘビロテのオレンジのスウェットを身に纏い、リビングダイニングへ駆け降りました。
お湯を沸かし、トースターに食パンを放り込み、タイマーをセットします。
健が気怠そうに二階から降りて来て、テーブルにつくのが見えました。
アタシは冷蔵庫からキャベツやキュウリ、トマトに作り置きのゆで卵を取り出し、それらを急いで切り分けます。
次に大きめのガラスの小鉢にヨーグルトを入れ、ブルーベリーソースをかけて、お湯が沸いたら、アタシのコーヒーと健のポタージュスープを作り、出来た物からテーブルへ並べていきます。
健はアタシのコーヒーの代わりにトマトジュースです。
それらの準備が終わった頃には丁度パンもトーストされ、全てがテーブルに並びました。
いだきますと手を合わせて、アタシは「早く食べちゃってね!」と健を急かしましたが、それはいらない心配でした。
いざ食べ始めると、健のほうが圧倒的に早いんです。
あっという間に健は食べ終わり、アタシの目の前にはまだパンが一枚とサラダが少し残っていました。
健はアタシの顔をジッと見つめながら話しかけて来ます。
「ホント、杏奈ってスゴいよね。サラダとか作るの手際良くってさ。こんなマジマジ見たことなかったから感動しちゃた。」
健はアタシを褒めてくれます。
アタシは「姉ちゃんじゃないんだ···」
聞こえないほど小さな声で呟いてました。
姉ではなく、一人の女として受け止めてくれている事に一抹の寂しさと大きな喜びを感じて、笑顔が溢れました。
「え?」
健は聞こえないよ的に聞き返してきました。