杏奈の気持ち 〜 秋陽 〜 杏奈と健-29
大勢に囲まれてイジメられていた健を救い出したアタシは健を家のお風呂に入れて、二人裸のまま恐怖に震えていた健を抱きしめていました。
「だいじょうぶ。だいぶーじょ。」と言うと、健に笑顔が戻ってきました。
お風呂から出て、健に新しい服を出してきて、着替えさせ、アタシも服を着ると、家の電話が鳴りました。
ディスプレイにお母さん携帯と表示があり、出ると、お母さんの声がしました。
「あ、杏奈。悪いんだけど、今から学校に来てくれる?先生がお話聞きたいんだって。私、車で先に行ってるから、健と一緒に学校に来てね。」
そう言ってお母さんは電話を切りました。
アタシはなんだろう?と思いましたが、誰かが健がイジメられてたことを先生に言ったのかな?くらいにしか思いませんでした。
健はまだショックを引きずっていると思ったので、連れて歩くのは可哀想だな、とは思いましたが、健の話も聞くのかな?と思い、仕方なく健の手を引いて学校へと向かいました。
学校へ着くと、お母さんが門の前で待っててくれました。
「行こっか」
そう言うとお母さんはいつもの笑顔でアタシの手を取り、健はアタシが手を握り、三人で並んで職員室へと向かいました。
職員室ではアタシの担任の先生がいて、お母さんに深々と頭を下げていました。
健の担任の先生もいて、「健君は先生と一緒にちょっとだけこっちにいようね。」
そう言って健と健の担任の先生は職員室から出て行きました。
健の不安そうな顔がアタシは心配でした。
そしてアタシの担任の先生がお母さんに「どうぞこちらへ。」と校長室へ案内しました。
アタシはお母さんに手を引かれ、一緒に校長室へ入りました。
校長室ではアタシがお尻を蹴っ飛ばした、あのイジメっ子がイジメっ子のお母さんと座っていました。
そのお母さんは横目で睨みつけるように鋭い視線をアタシに送っていました。
校長先生がアタシに、アタシが暴力を奮って、そのイジメっ子が足に怪我をしたと言っているけど、それは事実ですか?と聞いてきました。
アタシは怪我をしたというのは少し納得出来なかったけど、お尻を蹴っ飛ばしたのは事実なので、「はい。お尻を蹴っ飛ばしました。」と答えました。
そのイジメっ子のお母さんはオーバーなほど驚いた声を上げ、「まあ〜!なんてことっ!」と大きな声を上げていました。
校長先生は「なぜそんなことになったのですか?」と聞いてきたので、アタシはありのままに大勢に囲まれて弟がイジメられていたのを、この目で見たから助けようとした。その中心にいたから捕まえて引き倒した。二度としないように注意した時にお尻を蹴っ飛ばしました。と簡潔に説明しました。
そのイジメっ子のお母さんは、「いくら弟さんがイジメられてたとはいえ、なんて暴力的な女の子なの?親御さんはどういう教育をしているの?なぜウチの子だけを怪我させるの?」と、ヒステリックに喚き散らしていました。
校長先生が「まあまあ。」と間に入るまで、他にも何か言っていました。
アタシはその間、ずっとそのイジメっ子を見ていましたが、怪我といっても右足の膝っ小僧に2センチくらいの長さの傷が何本か入っているのしか見えず、それのことでこんなに騒いでるの?としか思いませんでした。
健はずっと震えるほど心が傷ついているのに···
するとそのイジメっ子のお母さんはその膝のキズを指差し、「見て下さい!このキズ!跡でも残ったらどうしてくれるんですか?!」と言葉を荒げた時には、「バカなの?」と笑ってしまいそうでした。
んなの、唾つけときゃ治るわよ。
て、いうか、健の心の傷はどうしてくれるの?
そう言いたいところでしたが、横にアタシのお母さんがいると思うと、そうもいきません。
するとアタシのお母さんがソファーから立ち上り、深々と頭を下げて、「大変申し訳ありませんでした。どうかお気持ちを落ち着かせ下さい。」
と一方的に謝り始めました。
「私どもの教育が至らなかったのかもしれません。私も今一度教育について何なのかを勉強したいと思います。ですので今回は私に免じてお許し願えないでしょうか?勿論、改めてお宅へお伺いして、謝罪もさせて頂きます。この度は大切なお子さまを傷つけてしまって本当に申し訳ありませんでした。心より謝罪させて頂きます。」
アタシはアタシ悪くないのに···と思いましたが、お母さんの言葉の中にアタシが悪いという言葉がどこにも出て来なかったので、反論のしようがありませんでした。
そう言ってお母さんは何度も何度も深々と頭を下げていました。
校長先生もアタシのお母さんの態度を見て、「こちらのお母さんも非を認めてこう仰っておられますので、この辺りで如何なものでしょう? お子さまもスリ傷程度で済んでいるのですから。」と手打ちを勧めていました。
イジメっ子のお母さんはまだ何か言いたそうでしたが、校長先生にそこまで言われては···と「ちゃんと躾くらいして下さいねっ!」とお母さんに捨てゼリフを吐いて帰っていきました。
お母さんはアタシの頭を優しく撫で、校長先生に深々と頭を下げ、アタシの手を引き、一緒に職員室を出ました。
廊下で担任の先生とお話しをしていた健が走ってきて、アタシの手を取りました。
健はアタシの手をギュッと握り、それを見てお母さんは幸せそうな笑みを浮かべました。
そして三人でお母さんの車に乗ろうとした時でした。
お母さんはアタシの目の前に腰を降ろし、両手を取り「健を守ってくれたんだよね。杏奈、ありがとね。」と言って優しく抱きしめてくれました。
健がその横からアタシに抱きついて来ました。
「お姉ちゃん、お風呂も入れてくれたよ。」
健がお母さんに言います。