杏奈の気持ち 〜 秋陽 〜 杏奈と健-18
「お腹すいたね。何か食べる?」と健に聞くと、「うん。そうだね。冷凍のパスタかなんかあったよね。食べようか。」と即答でした。
アタシはコーヒーを飲むためのお湯を沸かし、冷凍庫の在庫を見て、「オッケー。ナポリタンでいい?」と聞き返しました。
健は指でOKマークを作って応えます。
それを見て、冷凍パスタの外袋を開け、中袋のままレンジに突っ込むと、外袋に書いてあった分数でセットして温め始めました。
アタシたち以外、誰もいないリビングに、裸のままの二人。
意識しなくても健の引き締まった筋肉質な身体が目に入ります。
少し線は細いけど、全く無駄のない筋肉。
細マッチョというのが本当に当てはまるような美しいスタイル。
肩も筋肉で大きく盛り上がり、胸筋は無駄な脂肪など一切なく、ひとつひとつが盛り上がるように筋肉美が見て取れる。
引き締まり、大きくうねるような太腿の筋肉に支えられたお尻は、さらに筋肉が盛り上がるようにピンと上へ向いている。
ジッと見つめると、自然に顔が赤くなってしまう自分を感じていました。
そのままボディビルダーのポーズ決めてくれないかしら?
などと不謹慎な考えまで湧いて来ます。
うわっ!ヤバっ!
腹筋なんて、シックスパック超えてエイトパックあるじゃん···
そりゃそうよね。
練習であんな追い込み方してれば、当然よね。
変に納得していると、電子レンジがピーピーと呼びました。
火傷しないように気をつけて袋の両端を持ち、シンク横へ置くと、ササッと包丁で上から切り目を入れ、お皿にパスタを取り出し、まずは健から、と運びます。
さっきコーヒーのために沸かした残り湯で健の好きなジャガイモのポタージュスープを溶いて、それも運びます。
「アタシのこれからだから、健。先に食べてて。」
「うん。じゃあお先に。」
健が食べ始めるのを見届けると、アタシは口にしていたコーヒーカップをテーブルに置き、話し始めました。
「なんか不思議よねぇ〜。大好きな人に大好きって言えて、一緒にいると、こんなに満ち足りた気持ちでいられるんだね。いつも飲んでるおんなじコーヒーでさえ、スゴく美味しく感じるもん。」
アタシにしたら、素直な感想でした。
健は男らしくズルズルとパスタを啜り食べ、「それ、わかるよ。なんか今までと違うよね。」と答えてくれました。
アタシは想いを共有しているような嬉しさが込み上げ、「健と同じ気持ちでいられると幸せだな。」と呟いていました。
「多分、同じだよ。ずっと好きって言葉を押し殺して見てたもん。その抑圧されたモンがなくなっただけで幸せだと思うよ。」
思いがけない言葉が健から発せられ、アタシは物凄く感動していました。
アタシは両手で握っていたコーヒーカップをテーブルに置き、健の後ろから思いっきり抱きしめました。
それは想いを力へ変えるように。
そして「健。大好き。」と思ったまま口にしました。
電子レンジが解凍出来たよ!とピーピー鳴ります。
ん、もう!なんでいいところなのに邪魔するの?と思いながらレンジを開けます。
中袋ごと取り出し、包丁で上から切り目を入れて、湯気で火傷しないように気をつけながら、お皿に取り出し、健の目の前へと運びました。
アタシは健の真ん前にテーブルにつき、そしてクルクルとフォークを回してパスタを巻き付け、口に運びます。
ん。美味しい。
自然と笑顔になれました。
健も優しい笑顔を返してくれます。
満ち足りた気持ちになれました。
すごく穏やかな時間だと思いました。
アタシが食べ進めていると、健がふいに立ち上りました。
冷蔵庫へと向かったので、何か飲むんだな、と思った瞬間、健の下半身に異変を見つけました。
「アレ?健。またおっきくなってない?」
なんで?って思いましたが、「だって姉ちゃん、そのおっきな胸、引っ付けてくるから···」
そっか、アタシのせいか···と思いながら、少しイジワルしたくなって、「健って、心も身体も本当に素直ね。だから大好きよ。」
とからかってしまいました。
健は冷蔵庫の前でグラスにサイダーを注ぎながら、「それ、褒めてんの?貶してんの?」と聞き返して来ました。
「褒めてんのに決まってんじゃん」
その言葉に嘘はありませんでした。
「だって愛する私の彼氏なんだよ。」
そう言ったとたん、健はサイダーを吹きそうになりました。
アタシは「えっ?違うの?」と不安になりましたが、「違わないよ。姉ちゃんは世界で一番素敵な僕の彼女です。」と返してくれました。
世界で一番素敵···
なんて素敵な言葉なんだろう。
アタシ、健といると幸せだ。
胸が熱くなるのを覚えていました。
「ウフッ♪良かった♪」
自然と笑みが溢れました。
アタシは自分が食べ終わるとすぐに片付けを始めました。
健ともっと感じ合いたい。
健をもっと知りたい。
アタシを健に感じて欲しい。
アタシを健に知って欲しい。
そんな想いがアタシを突き動かせていました。
アタシがお皿を洗い始めると、すぐに健が隣に並びました。
アタシがお皿を洗って、健がそのお皿を乾いた布巾で拭き上げ、それを戸棚に戻していく。
それは今までも繰り返されてきた日常の風景でした。
でも、今日はいつもと少し違う。
二人とも裸だし、何よりも通じ合う心がありました。
お皿を全部しまい終わると、どちらからともなく唇を重ねていました。
それはとても自然な口吻でした。
唇が離れると、アタシはもう我慢の限界でした。