杏奈の気持ち 〜 秋陽 〜 杏奈と健-14
「そういえば、健の小学校からの同級生、吉永君だっけ?、この間、偶然駅で会ってさ、相談あるから聞いて欲しいっていうから、スタバでラテ飲みながら聞いてあげたの。」
「そしたら、吉永君、アタシのこと気になってたから付き合ってくれませんか?だって」
健の目は、明らかにその話題に喰い付いた目をしていました。
「アタシがイヤイヤ、ムリムリって断ったらさ、吉永君、すぐ引き下がって、健、絶対お姉さんの事、好きだから大切にしてあげて下さい、だって。けっこう良い子だよね〜」
そうアタシが続けると、健の拳がギュッ!と握られ、腕がプルプルと震え出しました。
「やっぱり手ぇ出してたのか···絶対殺す···」
健がアタシに初めて見せた暴力的な一面でした。
「ダメよ。健。ちゃんと諦めてくれたんだから。引き際のいい男って素敵なものだよ。手当たり次第っていうのは褒められたもんじゃないけど、しつこくしないで、その場限りで引いたんだから、それでいいじゃない。」
アタシは嗜めるように説得して、健も少し思い直してくれたようでした。
固く握られていた拳の力が抜けていくのを見ながら、やっぱり健、アタシのこと、好きでいてくれてるんだと期待しました。
でも、確信が欲しかった。
ちゃんと言葉にして欲しかった。
「健、アタシのこと好き?」
直球で聞くしかないと思いました。
健は暫くモジモジとしていましたが
「当たり前じゃん。姉ちゃんだもん。好きに決まってる。」
そうぶっきらぼうに言い捨てたのです。
「違うよ。姉ちゃんじゃなく、女としてだよ?」
アタシは健の表情を見逃さないようにつぶさに見上げていました。
お願い!アナタの言葉が欲しいの。
「それは···」
健は返答に困っていました。
まだ一押しが必要なんだと思いました。
「アタシ知ってるよ。健、オナニーの時、姉ちゃん、姉ちゃんで始まって、イク時は杏奈ぁって言ってるでしょ?」
健は小さく「ウッ!」と再び言葉に詰まっているようでした。
でも、一度天井を見るように頭を上げると、覚悟を決めたように話し出します。
「うん。そうだよ。ずっと姉ちゃんの事見てた。好きだった。今も好きだし、これからもずっと好きだと思う。姉ちゃん以上の女なんて、この世にいない気がしてる。」
今度はアタシが固まった。
欲しいと思っていた以上の言葉が健の口から発せられたからです。
身体の奥がジンジンとしてきました。
頭がクラクラする。
胸が締め付けられ、身体の奥から熱が発せられるような感覚まである。
「嬉しい····」
そんな陳腐な言葉しか出て来ない。
もどかしさしかない。
もっと言葉が欲しい。
いつまでもシャワーを浴びたまま健を立たせているのもなんだかな、と思い、湯船に入るように健を促しました。
アタシは健ともっと話したかったから、健が湯船に浸かって、対面で顔を見ながら話せるように湯船に入った。
「アタシも健の事、ずっと見てた。もちろん異性として。でも、なんだかいけない気がして、他の男の人と交際してみたりしたけど、いつもなんか違うの。こうじゃない、っていつも思ってた。」
アタシは健の腕を掴み、そっと撫でながら話し続けていました。
「この間、処女を奪われた時ね、痛みの中で健の事考えてた。健の顔が浮かんで来たの。」
「えっ?」
健には想像もつかない世界だろうな。
そんな事を思いながらアタシは話し続けた。
「行為が終わった後、スゴく後悔した。やらなきゃ良かったって悲しくなったの。だってその後、健の顔しか思い浮かばないんだもん。家帰ってずっと泣いてた。」
言い終わるかどうかのタイミングで、自然に涙が溢れた。
「やっぱりアタシ、こういうのは健とだけしたい···」
健はそんなアタシの目をジッと見つめてくる。
それはとても慈愛に満ちた目はだった。
アタシを拒否するものではないと感じた。
健にキスして欲しい。
その思いがアタシを突き動かしていた。
アタシは目を閉じて健の顔の前へと進んだ。
瞬間、アタシの唇に柔らかい、温かいものが触れてきた。
薄く目を開けると、健の顔が目の前へ迫っていた。
健がアタシにキスしてくれた!
もう想いは溢れていた。
健は一度、深く唇を合わせると、チュッ!チュッ!と何度も唇を合わせてきた。
健の唇はとても柔らかく、そして温かかった。
健をもっと感じたい!
欲望はアタシを突き動かせた。
アタシは健の両頬を両手で押さえ、そのまま健の唇に舌を滑り込ませました。
ビックリするかな?とは思ったけど、もうアタシは止まらなかった。
予想に反して健はスっと舌を合わせて来ました。
アタシのほうがビックリだった。
それはとても柔らかく、優しさ溢れる絡ませ方だった。
頭の中の芯がジンジンするほど気持ちいい。
健!健!健!
好き!好き!好き!
そんな言葉だけが頭の中をグルグルと回った。
身体全体が熱くなってくる。
息も荒くなってくる。
自分というものを見失っていくほどの快楽感。
アタシは完全にトロけてしまった。