杏奈の気持ち 〜 秋陽 〜 杏奈と健-10
速攻で「無事で良かった!」と返事が返ってきました。
友達ってありがたいな。
そう思いながら電車に揺られていました。
大学に着くと、同じ講義を聞く同期が門の前で待っていてくれました。
「昨日は心配かけてごめんね。頭痛くて寝てた。おかげで顔、浮腫まくりだよ」と笑いかけると、「LINE、返事ないから死んでんのかと心配したよ!」って怒られた。
「マジ死んでたぁ〜」と返すと、「まだ死なれると困るんですけど!」と返してくる。
ヤッパ友達は大事だな。
再認識でした。
午前中の講義が終わり、昼食を学食で友達と取っている時でした。
学食の奥で長谷川さんの姿を見つけました。
頭の中で「来るな!来るな!来ないで!」
と叫んでいました。
それが逆に引き寄せたのか、長谷川さんはアタシを見つけ、近寄って来ました。
嬉しそうに手を上げながら。
アタシは健!助けて。アタシに力を!
そう思った時でした。
健を助けなきゃ!
アタシが小学3年生の時に健が大勢にイジメられてた時の風景が頭をよぎったんです。
健!
今助けてあげる!
お姉ちゃん、今行くからね!
あの時の心の怒りが蘇って来ました。
長谷川さんはアタシの横へ立つと、軽々しくアタシの肩を抱き
「松前杏奈さん。この間はどうしちゃったのぉ?途中でいなくなっちゃったから、ビックリだよ。なんか急用だったぁ〜?」
背筋がゾッ!としました。
ああ、やっぱしアタシ、この人無理。
そう思いました。
爽やかに見えた笑顔は、ただチャラチャラヘラヘラとしか見えなくなっていました。
人って、こんなに見え方変わるんだ。
そうも思いました。
アタシは肩に添えられた長谷川さんの腕を取り払い、小学3年生の時の怒りそのままに長谷川さんの胸ぐらを掴み、思いっきり引っ張って
「ちょっとこっち来なさいよ!」
と、引き摺るように学食のテラスへと出ました。
中から見て、テラスには誰も人がいなかったからです。
テラスへのドアを押し開け、外へと出たとたん、アタシは長谷川さんを突き飛ばすように胸ぐらを掴んでいた手を離しました。
長谷川さんは呆気に取られたようにアタシを見ていました。
「一回シタだけで、彼氏気取ってんじゃないわよ!
前戯もマトモにせずにただ突っ込みやがって!
しかも入れたら入れたで5分ももたない粗チン野郎!
二度とアタシに近づくな!
今度声かけたら、殺すゾ!」
そう言い放って、アタシは背を向けました。
爽快な気分でした。
端的に纏められた見事なレポートだと自画自賛でした。
背を向けて、5秒くらいしてからでした。
長谷川さんは我に返ったのでしょう。
「ええ〜っっ!!」
と大きな声を出していました。
振り返るつもりもなかったので、無視してアタシは友達の待つテーブルに戻り、残った昼食を平らげました。
テラスのドアには騒ぎを見て、何人かの男の子が立っていました。
「こえ〜···」
誰かが漏らすように呟いていたけど、全く気になりませんでした。
友達たちは何が起こっているのか、理解出来ずに目をまん丸にしていました。
「杏奈、なんか泣いてるよ。あの人。」
そう友達が話しかけて来ましたが
「いいの。自業自得。放っときなさい。」
とアタシは返し、席を立ちました。
とても爽快な気分でした。
健が力をくれたような気がして、健の顔が思い浮かんで来ました。
アタシは絶対健のオンナになる。
そう心に決めた瞬間でした。
アタシは来週末へ向けて準備を始めました。
まずはその日へ向けて、ルナルナを使って、基礎体温から妊娠危険日のチェック。
アタシは中学の頃、少し生理不順時期があって、お母さんから基礎体温法での生理周期というのを教えてもらった。
毎朝、舌の下へ温度計を当てて、起き抜けの体温を測り、ネットアプリに打ち込んで、生理周期の予測をします。
それで自分の周期と当てはめ、ズレを認識するだけでも心の持ち方が変わってきます。
一般的には、妊娠に対して危険日や安全日なんて言われますが、危険日は存在しても、本当の意味での安全日は存在しません。
基礎体温高温期、黄体期と呼ばれる月経期の直前が妊娠し難いとは言われますが、その確率はけっしてゼロではないんです。
アタシはルナルナ上では黄体期12日目。
月経期3日前なので、一応は安全日ですが、もしも妊娠したら、健に負担になってしまうので、ネット診療で低用量ピルを処方してもらいました。
1週間飲み続ければ、多少でも効果は得られるだろうと考えました。
後は策なんか考えても、うまくアタシがこなせる訳ないと思い、その日に健に何食べてもらうか、食材の選定に頭を悩ませていました。
出来れば健の一番好きなモノ。
アレ?健って、何が一番好きだっただろ?そういえば、何でも美味しそうに食べてたよな〜···。
でも、基本的にはお子ちゃま舌だよね。
ヤッパ、アレかぁ〜··」