二人っきりの相談-7
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今橋京子は、お昼を取りに職員室まで戻るために2階の空き教室から廊下へと出ると、一歩一歩と歩きながら渦巻いている胸中を落ち着かせるように考える。
先ほど男子生徒に手コキをしてしまった。確かに教職者としてはあるまじき行動ではあったが、それに後悔などない。あれは非常事態であったし、北森総一ならば信用に足るものがあったから。
1年生の時の体育祭実行委員で会ってからしばらくぶりだったが、自分は憶えていた。勉強も運動でも目立たない生徒であったが、体育祭実行委員の時に一緒になった際は熱心に自分の話を聞いて委員会活動に取り組む姿を。
そんな北森総一の姿に京子にとっては一種のギャップ萌えだった。なにせ、自分が今まで関わることのなかったようなタイプの男子だ。そんな彼に興味をそそられたのは自身でも意外だと思っていた。
会話のコミュニケーションは、自分からだった。当人は戸惑っていたが、反応も悪くなかったからすぐに打ち解けられた。
もっとも、当日の体育祭は彼のクラスの順位は下から数えた方が早かったが、それでも北森総一という男子生徒は自分の中で記憶に残っていた。
なので、屋上で1年ぶりに再会した時はこの学校が勉強中心になって運動自体の単位が価値を落としていることもあって自分の存在価値が希薄化している時だったから、久しぶりに知人と再会した気分に浸れた。だから、男性器を扱いて手コキしたことに後悔などない。それで彼を助けになれたならばいいことだと思う。
そんな風に考えた京子ではあったが、歩きながらも心の中でしこりのように残っているものがある。それはこれが浮気になるのだろうか?ということだ。
今回のことを聞いたら多分、永介は怒るかもしれない。自分と同じ年代の男子生徒のペニスを手コキをしたことがわかれば少なからず嫉妬し、そして激怒するかもしれない。いや、仮に自分には納得したとしても北森総一に対してなんらかの攻撃行動をするのかもしれない。それは、彼女の望むことではなかった。
「(永介には黙っておこう)」
――余計な疑念を生みかねないからな。京子はそう判断し、その場で頷くと2階の廊下から階段を下りていく。
教室を出る前に話した総一からの提案。次回以降もまた淫らなことをするかもしれないという、その可能性の類は一切捨て置いて。