快速電車-1
「一度だけデートしたい」
そんな言葉を信じた自分が愚かだった。
彼氏がいるからと断ったものの、たとえフリーでも、地味顔で背も低く陰のある隆はまったくの恋愛対象外だったが
落選した舞台挨拶とトークイベント付き上映会の鑑賞券に釣られて、一度だけならと秘密で会う事にした。
隆と彼氏は接点もないし、絶対にバレないだろう。そう信じていたというより推しの俳優を生で見られるという欲に勝てず、そう自分に言い聞かせた。
「え、カワイイ」
デート当日に着て来て欲しいと渡された服を家で広げて、思わず声が漏れた。
露出が激しかったり、密着率の高い衣装を想像していたのにまさかシフォンワンピースとは。
鏡の前で当ててみると、ウエストフリルが愛らしい大人の女性向けのデザインで悪くないが念の為、洗濯もしておいた。
この時までは良い一日になりそうだと、本気でそう思っていた。
駅ビルから発車した電車は帰宅客で混み合っていて、絶好の狩場だったのだと、そう気付いた時にはもう私は捕らわれていた。
張り付いた隆の掌は私の肌から熱と湿り気を奪うように動かず、尻の丸みを包み込んでいる。皮膚を通して指の腹や関節の筋が脳裏に描かれ、ぞわぞわする。
隆も今、自分と同じように感覚的に生身を思い描いているのだと思うと気持ち悪いというより、羞恥が強かった。
周囲の乗客は熱が冷めやらず、イベントの様子を夢中で語りあっている。とても健全な雰囲気だ。
そんな中で卑猥極まりない下劣な行為に走っている男が居て、その対象が自分なのだという事がとてつもなく恥に思えた。
(さっきまで笑顔で感想を言い合っていた相手に…、それとも、会場に居た時から狙っていたの…?)
じっと遠くから。座席の隣りで。
私の体を目で犯し、牡を滾らせていたのかと、男の妄想の餌食にされていた下半身のことを考えるとむしょうに苛立つのと同時に恥ずかしかった。自分がそんなにいやらしい体なのだと思い知らされた気がして、急に布地で隠れた部分以外も気になってしまう。
「あ…!」
体を硬くする。
隆の片手が腰を撫で、フリル内に潜り込んできたのだ。
(う、嘘)
美伯は焦った。
隆の指が乳房の下を包み、ブラを巧みにずらしたその内の2本が既に硬くなり始めていた乳首をつまむ。
そのまま、ギュッと力を入れては緩める反復動作を始めた。
美伯の頭の中に拒絶の言葉がひしめき合う。しかし緊張と混乱のせいか、口は閉ざされたままになっていた。
その間も隆の指は休みなく責めを繰り返している。
(い、いつまでやるつもり…何が目的なの)
現状、自分の乳首を弄ぶことが隆の得になるとは考えられなかった。
とても正常とは思えない。
(変態…?こいつ、変態なの…?)
セックスや射精に結びつかない性的な接触だけを娯しむ、特殊な一人遊びに興じているのだろうか。そうだとしても、自分の体を無断で使用されるのは腹立たしい。
「ちょっと…!!」
目立たぬようにトーンを落とした声色で背後の隆を威嚇したつもりだった。
「!!」
目が合った隆は、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。
(なぜ…?)
疑問がよぎった脳に電流が走った。
「ぁうっ…!ン!!」
尖り切った乳頭に隆の爪が喰い込んでいるのだと知り、羞恥で耳まで染まってしまう。
変態男の指で煽られていく牝の本能を悟った時には、もう手遅れだった。
尻を撫でていた手がいつの間にか前に回り、恥部の突起を押さえ込んでいたのだ。
それも2本の指の間に、ピタリと挟むようにして。
柔らかく重なったシフォン生地に密かに切れ目が入れられていたのだ、と
美伯がその事に気付いた時、隆がクリトリスを挟んだ指を軽く絞めた。
キュッと潰された淫核はたちまち充血して肉粒と呼べるくらいのサイズになってしまう。
10分ほど乳頭と肉粒を搾られ、美伯はすっかり息が上がってしまっていた。
ぼんやりとした頭を必死で叱咤しながら、唇を引き結び、決して表情には出さないよう努めた。
「コチコチだな、終点まで丁寧にほぐしてやるよ」
睨みつける美伯の耳元で囁かれた言葉に、震え上がる。
(2時間以上“これ”を続けられるの!?)
初めて恐怖した美伯は今更もがいたが手足を動かす余裕すらない状況を思い知らされ、改めて絶望した。
「い…い、や…ッ!…いや…っ…!」
そっと呟きながら体をもぞつかせるが、肩を少し揺するくらいしかできない。
欲望に張り詰めた牝突起は卑劣な変態男の指先に捕まったままだ。
身動きもとれないまま、変態責めを受ける乳首とクリトリスが哀れでならなかった。しかし当の牝は、すっかり熱を持って、パンパンに膨らんでいる。