25歳-4
「梓」
すっと体を離される。
二人の間に出来る隙間が、それさえもなんだか切なくて寂しかった。
そっと章吾に手をとられる。
「え?これ…」
左手の薬指で煌めく、その石。
「ガーネット…」
あたしの、1月の誕生石。
「章吾…」
「なぁ」
呼びかけたくせに背中を見せた章吾に眉を寄せる。
「結婚、しねぇか」
夕日はもう沈んでしまった。
あたりは暗闇で覆われていたから、章吾がどんな顔をしているのか分からない。
でもそれよりも何よりも。
「…はい…」
自分のこの表情を章吾に見られないことが何よりも。
酷い顔をしているだろう。
涙でぐしゃぐしゃで、鼻だってきっと赤くて。
「…泣いてんじゃねぇよ」
また、抱き寄せられる。
そう言う章吾の声だって震えてるじゃないか。
そう言いたくてももう―…
あの時のあの約束。
子どもだったあたしたちが交わした、あまりにも子どもじみた約束。
それが叶った25歳の誕生日。