25歳-3
「悪い、飛行機遅れちまった」
「…遅い…」
ぐいと引き寄せられた体。
耳元でもう一回「悪い」と繰り返した章吾の低い声にゾクリと何かが背筋を走っていく。
「いやだ!離して!」
諦めようとしていたの。
もう次の一歩を踏み出そうとしていたの。
切なくて、苦しくて。
「離さねぇ」
腕の中でバタバタと暴れても、いっそう強く抱きしめられるだけで。
力強い腕とその言葉にぐったりとうなだれた。
瞬間に耳元で囁かれた、言葉。
「好きだ」
涙が溢れた。
どうしようもなかった。
もう、止められない。
自分の気持ちに逆らうことなんて、もう出来はしなかった。
手が震える。
でも抱き返したい。
抱き締めたい。
この人が、愛しいから。
「…もうっ、来ない、か、とっ…」
必死で紡いだ言葉は途切れてしまったけれども。
きっときっと伝わった筈。