25歳-2
そう。
ありきたりな話だよ。
幼馴染みと結婚の約束なんて。
そもそも付き合ってたかどうかもあやしいとこだし。
「付き合おう」なんて言われなかったし、「好き」だなんて言葉も聞いたことない。
携帯電話という便利な物が世の中に浸透しているのにも関わらず、あいつの番号とかメールアドレスも知らないし。
吐いた息は白かった。
手だってもう赤かった。
視界が、霞んだ。
「ふっ…」
なんで視界がぼやけるの。
なんで泣いてるの。
それだけ、あたしはあいつのことが好きだったって。
溢れる涙で嫌でも思い知らされる。
忘れるの。
だって7年もこんな約束に縛られて、縋っていたなんて。
自分が惨めなだけだよ。
まだ間に合う。
素敵な人は世の中に沢山いるじゃない。
何もあいつじゃなくてもいいじゃない。
忘れよう。
忘れ…
「…られるわけないよ…」
パタ
乾いた草の上に涙が零れる。
いくら手で覆っても、手で拭っても。
耳の中が、涙が滴る音と自分の嗚咽で支配される。
そんな中、草を踏みしめる音がやけにクリアに耳に響いた。
「梓」
嗚呼。
「…章吾…」
気持ちはとっても天邪鬼で。
諦めようとしていたからこそ苦しくて、切なくて。
だからこそ会えた嬉しさがそれを上回らない。