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熱帯魚の躾方
【SM 官能小説】

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エピローグ-1

 「おはようございます!」「んっ、ああ、おはよう。」「御主人様、そろそろ起きないと…。」「今日は、店閉めようかな?」「学生さんも来てるんでしょ?お仕事はちゃんとしないと。」
 夏希のスウェットを着て、後ろに髪を束ねた沙莉に促されて、ようやくベッドから出た。

 顔を洗っていると、台所からいい匂いが漂って来る。後ろから沙莉の腰に手を回して、肩に顔を乗せた。「もう、邪魔しないの。座って待ってて。」上着の下から手を突っ込み大きな乳房を揉む。「こら〜!いい加減にしないと、刺しますよ!」包丁の歯がこちらを向いた。
「ハハハ、降参降参!やっぱり、ちょっとデカくなったな!乳首も膨らんで。」

 テーブルに皿を運びながら、沙莉が答える。「えーっと、Gカップになりました。えへへっ。」「まるで、蜂みたいな身体だな。」「お尻がもうちょっと欲しいかな。横幅が無いんですよ!」「ハハハ、それは贅沢過ぎる悩みというヤツだよ。」

「有り合わせでごめんなさい!」「いや、十分だ。頂きます。」沙莉と他愛無い話をしながら、朝食を口に運ぶ。沙莉とこのテーブルを囲むのはもう三年ぶりになるだろうか?
 鎖骨と手首から見える昨夜の縄跡が痛々しい。

 ピンポーン♪マスコミかと思って慌ててドアのレンズを覗く。「おはようございます!美羽でーす!」「おお、美羽か!おはよう!」「お姉ちゃんの荷物持って来てって言うから、旦那と部屋に行って来たけど、マスコミ関係者でいっぱいだよ!」美羽の後ろには背の高い色白の中性的な美男子が大きなスーツケースを持っている。
 目が合って軽く会釈しあった。
「お仕事中だからもう行くね。」奥から沙莉が出て来て美羽を抱きしめた。「美羽、ありがとう!今度、ゆっくりね!」

「ここもヤバいかな?」「多分、大丈夫ですよ!」「沙莉、仕事は?」「暫くお休みです!どうせこうなると思って、一ヶ月ほど空けてます。」「事務所は大丈夫なのか?」「帰国してからはフリーで動いてますから。」

「その間は、どうするんだ?」「んふふ、どうしようかな?前みたいにお店手伝いましょうか?」「中山沙莉だってバレるぞ!」「多分、変装したらわかんないわよ!そーだ、髪切っちゃお!」「せっかく伸ばしたのにいいのか?勿体ないなあ。」

 再び沙莉との生活が始まった。暫くはテレビで話題になっていたが、相次ぐ大物政治家のスキャンダルと、有名芸能人の麻薬乱交パーティーのニュースで、沙莉のニュースは二週間と経たないうちに消えていった。世間の流れは思ったよりずっと速い。

 閉店後の片付けをしながら、沙莉が呟いた。「結局、マスコミなんてこんなものなのよね。ほんと蠅みたいでつまんない。」「まあ、メディアは視聴率が全てだから仕方ないだろ。」「あーあ、せっかく髪切ったのに!カラーリングまで入れたし!」「まあ、そうぼやくな。よく似合ってるよ。昔のマドンナみたいだ。ヴァーニングアップのMVでそんな髪型してた。」「マドンナはわかるけど観たことないかな。」ネットで探してスマホを見せる。「こんなに綺麗じゃないよぉ!でも、嬉しっ!」

「引退後はどうするんだ?」「専業主婦!」「おいおい、勿体ない!」「じゃ、熱帯魚屋のお姉さん!」「勿体ないなぁ。本当にそれでいいのか?大して儲からんぞ!」「い、い、の!御主人様さえ居れば。んふふ…。」

 三月になり、沙莉は惜しまれながら芸能界を後にした。
 沙莉の自伝的小説『熱帯魚の裏側』は発売と同時に書店からの注文殺到で、編集担当の美羽曰く、今年のベストセラー入り間違い無しだそうだ。

 映画『熱帯魚の躾方』は大ヒットし、続編『熱帯魚の躾方 灼熱』とスピンオフ作品『熱帯魚の躾方 美夜』が作られることになった。美夜役には本編に引き続き菅内玲が抜擢された。監督の団音遠と演出の比留川結花から制作に加わるよう強く要請されたが断った。

 相変わらず、編集担当の美羽と編集長から次回作の執筆を熱望されているが、小説『熱帯魚の躾方』は沙莉を失い、愛とSMへの渇望があったからこそ書けたのだ。あの喪失感と飢えと乾きの日々はもうごめんだ。

 四月の桜が咲く頃に沙莉は引越して来た。ドレスを始めとする衣装は全て後輩達にプレゼントし、思ったより荷物は少なかった。
 以前の同棲生活と違うことは、寝室を同じにしたことだ。トイレにまで付いて来そうなほど毎日私にべったりとくっついて過ごしている。

 留学中の夏希は大学院まで進むことになった。メールで沙莉との関係を告白した。最初は驚いていたようだが、沙莉とたまにやり取りしていたようで、快く賛成してくれた。この夏、付き合い始めたカナダ人の彼氏を連れて帰って来るそうだ。

 沙莉の母親と姉達に挨拶にも行った。関係性から変な目で見られるだろうと思っていたが、皆『熱帯魚の躾方』と『熱帯魚の裏側』を愛読してくれて、沙莉との同棲を祝ってくれた。
 芸能界引退を惜しむ話が多かったが、沙莉の意志だからと母親がフォローしてくれた。
 姉達から早く結婚して子供を作るように促されるのが、年齢的に少々恥ずかしい。

 美羽は、『熱帯魚の躾方』と『熱帯魚の裏側』の大ヒットを飛ばした凄腕美人編集者として、雑誌やメディアでの露出が増えた。
 まだ編集長には言ってないようだが、お腹に新しい命が宿ったそうだ。近々、沙莉とお祝いに伺う予定だ。二人とも美形だから、どんな子供が産まれるのか楽しみだ。

 比留川結花は、相変わらず自由奔放に業界を闊歩しているようだ。映画に写真に舞台演出まで手掛けている。来年には恵まれない子供達の為の育児施設を作り、そこから俳優を育てるという。
 先日、あの屋敷のレストランに巨大な水槽を置きたいと問い合わせが来ている。注文のサイズが大き過ぎるので、製作してくれる業者と現在打合せ中だ。


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