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熱帯魚の躾方
【SM 官能小説】

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映画(五)-2

 ボーっと無気力な日々を過ごしていくうち関係者だけの試写会の案内が来たが、水産大学でのサクラバイオレット開発の講義と被って行けなかった。監督の団から何もパッケージされていないDVD二枚と舞台挨拶には必ず来るようにという手紙が添えてあった。
 二枚のDVDは本編と予告メイキングに分かれていた。まずは本編から観る。静と動、色彩とモノクロ、日常と狂気を描いている。所々で流れるフリージャズが上手く馴染んでいい感じだ。吸い込まれるように観ながら、沙莉との日々を思い出していた。沙莉の肌が、顔が、香りが頭に過る。
 嫌われても憎まれても、遠目からでもいい、沙莉に会いたい。

 映画の予告がテレビに流れ、物議を醸し出した。主演の松木陸之助と中山沙莉が、映画の宣伝を兼ねてバラエティ番組に引っ張り凧だ。話題の中心となるのは、沙莉のフルヌードと激しいSM調教のシーンだ。中でも試写会に招待された有名人からは剃毛シーンでの質問が多かった。実際は松木ではなく私が剃ったのだが、松木は興奮し過ぎてよく覚えていないと答えていた。因みに私は、原作、脚本、緊縛師、演技指導という肩書きで、映画のテロップに登場している。メイキングDVDには帽子とサングラスに付け髭で映っている。

 舞台挨拶の日となった。ダークスーツに中折れ帽を被り、サングラスと付け髭をつけて舞台へと上がった。結花が立ち位置を調整して、私の左隣に沙莉が立つことになった。
 緊張していると右隣の結花から、「深呼吸して、そうそう。全然大丈夫だから、私がフォローするからね。」気になるのは女性陣は皆ドレスなのに主演の沙莉が地味な膝丈のグレーのワンピースなことだ。しかも、ゆったりとしたシルエットで、自慢のボディラインを活かしていない。並んで立つ沙莉からは花のようなあの香りに混じって、微かにパッションフルーツのような香りを感じる。
 結花が司会を務める流れで次々とインタビューしていく。何故か主演の沙莉が一番最後だった。沙莉は二歩ほど前に出て、背中のファスナーを下ろした。まさか、ここで脱ぐのか?驚いて止めようとする私の肩を結花が押さえた。
 黒地に赤い薔薇の刺繍が入ったレースの下着の上から麻縄に縛られている。菱縄の縛り方から沙莉が自分で縛ったのがわかる。
 会場がどよめく、シャッターを切る音、スマホで撮影する人。まるで周りに誰も居ないかのように私に向かい跪いた。
「御主人様、ご調教宜しくお願い致します。」私の革靴に口づけて舌で舐める。
 舞台の照明が落ちて、会場はどよめいたまま映画の上映が始まった。
 舞台の下手から楽屋へと案内され、五分ほど遅れて沙莉を連れた結花が楽屋へと入ってきた。
「大丈夫かな?やり過ぎなんじゃない?これ結花ちゃんの仕込み?」驚いた団が聞いた。「いいえ、沙莉ちゃんがやりたいって言うから任せたの。先生、ごめんなさい!驚いたでしょ?」沙莉も並んで頭を下げた後、悪戯っ娘のようにペロリと舌を出した。
「こりゃ、えらいことになるぞ!公序良俗に反するとか言われたりしてな。ハハハ。」「芸術として突き通したらいいの!いざとなったら、私がお偉方動かすから大丈夫よ!」「さすがは結花ちゃん!ヤバい時は頼むよ!」

 週刊誌からネット、テレビのバラエティ番組まで、翌週は舞台挨拶の話題で持ち切りになった。過剰演出過ぎるとか、ハレンチ過ぎるという声も多かったが、沙莉の美学を称賛する声も多かった。比留川結花の根回しか、番組ではほぼ沙莉擁護派しかいない。

 沙莉は記者会見を開くということで、バラエティ番組ではこの件のことには、口を閉ざした。

 映画はR18指定にも関わらず初日から一週間での興行収入が邦画歴代十二位となった。海外での上映依頼も殺到し、クランクインから舞台挨拶までの日々を中心に執筆した中山沙莉著『熱帯魚の裏側』が三月に発売されることになった。

 ロケで使われたということで私が経営するアクアリウム菰田には沙莉ファンが殺到した。映画でベタを紹介したせいか、ベタの飼育セットが飛ぶように売り切れる。多忙過ぎて、インターンで来ている学生達にも手伝って貰う始末だ。

 一ヶ月後、沙莉は深夜に記者会見を開き、ほとんどの民放局が中継した。
向かって右手から真っ白なドレスを着た沙莉が登場する。「こんばんは!中山沙莉です。遅い時間にも関わらずご来場ありがとうございます。」立ち上がり深々と頭を下げた。
 記者から質問が飛ぶ。
「まずは、映画の大ヒットおめでとうございます!」「ありがとうございます!」「やはり、あの舞台挨拶の件ですが、何故あのようなことを?」「はい!私が提案して比留川結花さんに手伝ってもらいました。」「あの姿に縛られたのは?」「あれは自分でやりました。菱縄縛りと言います。」「プライベートでもそういうご経験がお有りでしょうか?」「はい。ご調教して頂いた時期があります。」会場がどよめく。
「それは男性から強引にされたものですか?それとも合意の元ですか?」「勿論、合意の元です。私からお願いしました。」

 一体、どこまで真実を語るつもりだ?女優生命を終わらせる気なのか?テレビを観ているのが怖い。心臓が口から飛び出しそうだ。

「その男性とは、今も交際されているのですか?」「三年前、私がフランスに発つ前に別れました。」「それは、どちらから?」「私が振られました。御主人様は一般の方で、自分の存在が私に取ってマイナスになると思われていたようです。ちょっとデートしたら、こんな風にスクープになりますからね。」悪戯っ娘のように軽く舌を出して笑った。
「何年位お付き合いされてたんですか?」「一年ほどです。」「今はお相手は?」「残念ながら居ません。」「フランスでも大変モテられたでしょう?告白されたり、多かったんじゃないですか?」「何人かはありましたけど、多くは無いですよ!」


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