逆転する関係B-1
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「二人が、先生のこと……思い続けてたのも知ってた。だけど、言わないって。言ったら関係が崩れるって。でも……あたしからしたら口に出せることさえ羨ましくて………………」
衝撃的な告白を受けてしまい、由美香は何も言えなかった。
彼女はひたすらに自制していたのだ。
もし何かあるとすれば、朝方起きた時に抱きつかれることくらいだった。彼女は同性として、それを男たちに勝る優越感として保持し続けていたのだろう。
「高橋くんと一緒で、他の女の子と寝ても、全然ダメだった……」
声を震わせながら清香は言う。
「だけど、こうしてるだけで良かったのに。高橋くんたち、あんなこと……するから……どんどん、嫌なこと考えちゃったの」
清香はゆっくりと顔をもたげさせる。
瞳が潤んでいるのが、常夜灯の中でわかる。
その顔を見たせいで、由美香は腕を振り払うことができずにいた。
「堀尾くんに、押し倒されて……何されたんですか」
「何も、それ以上は……人の家で強引なことしないでって」
「ーー抱きしめても、それ以上のことしたくても、あたし……ずっと我慢してたのに」
清香の目から涙が零れて、ぐすっ、ぐすっと鼻をすする音がする。
由美香の背中に回している手をずらし、顔の涙を清香は拭う。
いつから思われていたかは知らないが、思いを隠し続け、さらには同性愛者であるゆえに、同僚にも吐露することができなかったという事実。
だから、声だけでも、と……
それがひどいことだと清香は理解しつつ、そうせざるを得ない心情に、由美香の心がぐらぐらと揺れる。
そんなとき、胸元にあった清香の顔がゆっくりと、由美香の顔へ近づく。
柔らかな弾力が、唇へ触れた。
幾度も押し当てられる。その行為を、一連の流れから抗うことができなかった。
由美香は何も言えず、何もできず、清香の体に手を這わせたまま目を閉じる。
幾度かキスされたあと、震える声で、清香が何度も「ごめんなさい」と呟いた。
由美香は目を開けて、清香の背中を引き寄せ、さする。
「あ、あたし……もし同じこと、好きでもない、女の人でも……されたら……絶対無理……って思っ…………た。ごめんなさ……い」
清香は自分に重ね合わせて、自責の念にかられたようだ。
ベッドの端に寄せてあるティッシュボックスから、由美香は数枚ティッシュを引き抜き、渡す。
「怒ってないよ。大丈夫」
涙をふいたティッシュを清香はベッドの端に放ると、再び由美香の体を抱きしめる。
「我慢してくれてたんだね。……あたしも好きな人と一緒に寝てるのに何もできない状況なら、きっとどきどきしちゃう」
「ずっと、我慢してました……。我慢してたのに……高橋くんと堀尾くん……あんな……こと…………先生の声だけ……聞こえて」