杏奈と健 〜 鏡の中のアンナ 〜-6
そして姉はギューっと僕を抱きしめた。
「健。健の言葉が嬉しい。アタシ、今、スッゴい幸せ。」
「僕もだよ。姉ちゃん。今が凄く幸せに感じてる。」
そう返した時だった。
「健。何か忘れてない?」
姉は僕の顔を下から覗き込むように首を傾げた。いつもの目力強く睨んでる。
「えっ?!」
思い当たることが浮かばなかった。
「もう!···」
姉はあからさまに頬を膨らませ、プンと怒ったような顔をする。
「姉ちゃんじゃないでしょ?」
「あっ!····」
僕は困り果ててしまった。
「健ったら、言わないとずっと姉ちゃん呼びなんだから。もう!」
「そうでした。スミマセン····」
苦笑いを浮かべる僕に杏奈は
「しょうがないっか!健だもんネ♪」
そう言うと杏奈はスックと立ち上がり、「ノボセて来ちゃった。アタシの部屋行こ♪」とスタスタと風呂を出た。
僕も少しばつが悪くなって杏奈の後に続く。
脱衣所でポン!とバスタオルを投げられ、それで身体を拭く。
杏奈はそそくさと拭き終え、「ヤッパ身体がデカいと拭くのも大変ね。」と言いながら、僕の背中についた水滴を拭き取ってくれた。
そしてドライヤーで僕の髪の毛を乾かし、ヘアブラシで形を綺麗に整えてくれた。
続けて自分の髪の毛もヘアブラシを使い、丹念に乾かした。
杏奈の使っているシャンプーの香りが脱衣所全体に充満し、その花のような匂いがとても心地よく感じる。
杏奈はドライヤーのコードをクルクルっと巻き片付けると、洗面台に置いてあった化粧水と乳液で肌のお手入れにも余念がない。
「洗濯機、回しちゃうね。」
そう言ってさっきまで着ていたジャージや下着、バスタオルを纏めて洗濯機に入れてしまった。
必然的にまた僕らは裸のままだ。
杏奈は洗濯機のスイッチを押すと、僕の向かい側に立ち、腕を首に回してきた。
自然な流れのように唇を重ね、それはまったりとしたディープなものへと変わっていく。
僕はそれがとても心地よく感じているが、杏奈も同じようで、頬を赤らめ、トロンとした表情になる。
「部屋···いこっか。」
杏奈が少し恥ずかしげに囁いたタイミングで、僕はある事を思いついた。
僕はおもむろに杏奈の腰に手をやり、そのまま横に抱き上げた。
お姫様抱っこだ。
杏奈は一瞬、「えっ!?」と驚いたが、すぐに僕の首へ腕を回し、それに応えてくれる。
密着した杏奈の身体から体温が伝わってくる。
チュッ!と軽く唇を合わせてから、少し狭い脱衣所を横向きに抜けて、広い廊下へ出ると、正面を向いて少し杏奈を揺らしながら僕は階段へと向かった。
姉は心配して「重くない?」と聞くが「全然。杏奈って思ったほど重くないもん。楽ショーだよ。」と返した。
階段は廊下に比べると少し狭くなっているので、杏奈の足が手摺にぶつからないように、斜めになりながら注意して昇る。
「何だか、健、スゴく逞しく感じる。スゴいね。」
杏奈は僕の目をジッと見つめて恥じらうように笑みを浮かべていた。
それはまさに恋する乙女の表情だった。
ヤバい。可愛い。可愛過ぎる。
僕の心臓は早鐘を打っていた。
杏奈の部屋の前で一度立ち止まり、杏奈がドアノブを下げ、ドアが開き、真っ暗な部屋の中へと入って行く。
ベッドの前に立つと、「到着致しました。杏奈姫。どうされますか?」と戯けて聞いてみた。
電気は点いていなかったが、窓のカーテンの隙間から街灯の光が入り、杏奈の表情は見て取れた。
薄灯りの中、ベッドに背を向け、僕は杏奈の使っている等身大の鏡の前へ立ち、抱き上げた杏奈と自分の姿を見ていた。
杏奈も鏡を見つめ、笑みを浮べている。
杏奈のボディラインが薄灯りに照らされ、影を纏ってとても美しく見えた。
僕は女神様を抱いているような錯覚に陥り、ただジッと鏡に映るその姿を見つめていた。
「杏奈、とても綺麗だ。」
自然と口に出た。
目と目が合って、「健···アタシの王子さま」と呟き、紅潮した表情で杏奈は見つめてくる。
杏奈はおもむろに僕の首に回した腕で僕の顔を引き寄せ、口吻を始めた。
それはすぐにディープなものへと変わり、お互いの息が荒くなる。
とてもとても長い時間をかけた濃厚なキスだった。
思わずこれ以上は息が続かないといったタイミングで唇を離し、杏奈の表情を確認する。
杏奈は自らスルリと降り立ち、僕の手を引き、ベッドへと誘った。
それに応えて僕らはベッドに膝立ちで向かい合った。
「真っ暗なのもなんだかね。」
そう言うと、杏奈はベッドのヘッド部分にある薄く光る間接照明のスイッチを入れた。
本を読む程度の明かりにはなる。
薄く光る明かりの中で光と影が混在し、より一層艶めかしく杏奈を照らす。
膝立ちのまま僕らは唇を重ね、それは当然のようにディープなものへ変わっていく。
お互いが貪るように舌を吸い合い、絡めていく。
息遣いが荒くなり、興奮度を高め合うかのように長い口吻を終えると、僕は杏奈の肩に手を添え、僕に対して後ろ向きになるように促す。
後ろを向いた杏奈の背後から手を脇から乳房に添わせ、その美しい乳房の形を堪能するようにゆっくりと揉んでいく。
杏奈はそれに応えるように、右手を僕の頭に置き、左手は僕の腕を撫でるように沿わせてくる。
張りがあり、それでも柔らかい杏奈の乳房。揉んでもさほど形の崩れない、なんとも言えない感触を掌に覚え込ませるように揉みしだく。