杏奈と健 〜 鏡の中のアンナ 〜-4
何もかもが愛おしい。
姉もこんな気持ちで洗ってくれたのだろうか?
後ろ向きのまま乳房も丹念に撫で洗う。
美しい形を掌に感じながら、僕は丹念に撫で回す。
ただでさえ滑らかな肌の上にボディーソープの潤いが加わり、なんとも言えない感触が掌に伝わってくる。
それが刺激になったのか、姉の乳首が固くなっている事に気づく。
両手の親指と人差し指でクリクリと摘むと、姉の息遣いが荒くなる。
「ん、もう。そんな事したら我慢できなくなっちゃうよぉ」
そう言われて「ゴメン、ゴメン。つい···」
そう言って後ろ向きのまま、僕は腰を下げてお腹から腰回り、太腿から足の先に至るまで、姉がしてくれたように丹念に洗い上げた。
仕上げに姉がいつも使っている花の香りのするシャンプーで姉の長い髪を指で梳かすように洗いあげ、二人は泡まみれになっていった。
姉がシャワーでお互いの泡を全て流し、僕らは浴槽に入り、深々と湯に浸かった。
姉は一度僕の上に乗り、背中を向けて僕の足の間に潜り込んで来た。
僕は陸上をやっているので、肌は黒く焼け、肌質はそれほど良くはない。
しかし姉は本当に白く、透き通るかのように美しい。
僕が後ろにいて、肌を合わせるとそれがまた際立って見えた。
背中もとても艷やかで、綺麗なカーブを描くうなじから背中はとても綺麗だと感じた。
僕はそんな姉の肩から背中に両手を置き、自分の腕と見比べていた。
「姉ちゃんてホント肌綺麗だよね。白くてモチモチしてて、スベスベで。僕なんか真っ黒で陸上焼けしてガサガサだし、こうやって比べるとヤバいよね。」
そう言うと
「そお?男と女で肌質は違うだろうけど、健の肌ってサラサラで、筋肉質で、デコボコしたとこなんか、野性的でカッコいいと思うけどな。」
そう言うと、続けて
「健が陸上やりたいって言い始めた時、続くのかな?って心配したけど、健ったら、そっから急に成長していくみたいにどんどん強くなっていって、アタシ、少し寂しかった。
もうアタシの出る幕はないのかな?って。
でもね。大会とか出て記録残すようになると、ホント、カッコいいって思ったの。その辺りかな。健を異性として意識しはじめたの··」
姉は自分の両手の指先同士を合わせたり組んだりしながら、そう告白した。
「そうだったんだ。全然気がつかなかった。」
僕がそう答えると、姉はさらに続ける。
「健、中学3年生の時に、部の威信をかけたレースあったでしょ?
あの時に後輩たち引き連れて、絶対勝つぞ!って輪の中心にいて、後輩たちを鼓舞してた。
あの姿見て、ホント、カッコいいって思ったの。宣言通り健がアンカーで1位でゴールテープ切った時なんか、感動して、涙止まらなかったもん。
誰にでも誇れる弟、って気持ちと、カッコいい理想の男性像みたいなのが合わさって、苦しいくらい好きになった。」
姉はそう言うと僕の手を取り、上から被せるようにして指を絡ませてくる。
「だからアタシ、高校の時って、健しか見えてなかったよ。」
そう言って姉は後ろを振り向き、キスを求めてきた。
僕は顔を覗き込むようにして唇を合わせる。
安堵するように薄い笑みを浮かべながら姉は話し続ける。
「健、高校入ってからも陸上続けてくれて、何度も大会出ては記録伸ばしてた。何かに一生懸命になるって、スゴいな、っていつも思ってたよ。
大会前なんて、限界ギリギリまで自分を追い込んでる感あって、心配だったけど、頑張れ!っていつも応援してた。
健はそれに応えるように記録伸ばしていくから、アタシ、どんどん健しか見えなくなってって···」
姉が言葉に詰まったのを感じて、僕は胸に熱いものを感じていた。
「大会、来てくれてたんだ。」
僕はそう呟いた。
姉の言葉が素直に嬉しかった。
「うん。全部見てた。
中学ん時の同級生にLINEして、その子の妹とか弟に探ってもらって···」
「健がアタシにいつも勇気をくれたから。」
知らなかった。
大きな大会では僕が知らせて、両親と一緒に見に来てくれていたのは知っていたけれど、それが全ての大会だったとは。
「アタシ、大学、国立にしたの、健の影響なんだよ。
健、高校入って、他校じゃ周りにスゴいのばっかで、全然勝てない日が続いたでしょ?。でも、健、クサらずに毎日キツイ練習を黙々と続けてた。
毎日毎日おんなじメニューこなして、いつもそれ以上を求めてた。
そんな姿見て、そうか、何かを成し遂げようとするには、毎日の積み重ねなんだ、積み重ねて人は強くなるんだ、って、健が教えてくれたの。」
「だからアタシ、健みたい何かを人に伝えられる人間になりたいって思って、教育学部にしたんだよ。」
「もう健しか見てなかった。見えなかったんだもん。だから健には精一杯美味しいもの食べて欲しいと思って、料理も勉強したの。」
そう言いながら、姉は僕が後ろから回している腕を手に取って、そっと口吻をした。
「僕の為に洋食屋でアルバイトしてたの?」
そう聞くと、姉は小さく頷いて「ウン。」と答えた。
胸が熱くなった。
僕の片想いじゃなかったんだ。
姉も僕をずっと前から好いていてくれた。
その事実を知らされ、僕は更に姉を愛おしく感じていた。
それは心を何かに鷲掴みにされたような感覚だった。
「姉ちゃん···」
僕は後ろから姉を強く抱きしめた。
姉の後頭部に僕の額を擦り付け、ギュッと抱きしめる。