杏奈と健 〜 鏡の中のアンナ 〜-3
姉はかなり狼狽えていた。
僕は思った事を口にしただけなので、「?」と思ったが、「普通に思ったこと言っただけだけど?」と返した。
「健···」
そう言って姉は照れた表情で僕を見つめていた。
「そんな事よりさ····」
「父さんと母さん、どうする?」
僕はそっちのほうが心配だった。
いくら血の繋がりがないとはいえ、僕らは姉弟として育ってきた。
その姉弟同士の恋愛を、父や母はどう思い、受け止めるのだろうか。
全く想像もつかなかったのだ。
「そうだね。それ考えると気が重いね。」
姉はすこしうつむき加減に答えた。
「父さんなんか、ひっくり返りそうだよね。」
僕が言うと、「確かにね···」と姉は益々表情が曇った。
「先にお母さんに相談したほうがいいかも。」
姉は迷いもなくそう言った。
血の繋がりはないけれど、姉は母に全幅の信頼を置いていた。
母はとても大らかな性格で、それこそ姉にも僕にも分け隔てなく愛情を注いでくれていたからだ。
「そうだね。母さんならわかってくれるかも。」
僕もそう思った。
それでも姉の表情が晴れないので、
「大丈夫だよ!僕が絶対わかって貰えるまで説得するから。姉ちゃん、任せてよ。」
何の確証もなかったが、本当に僕が背負うつもりでいたので、姉には安心して欲しかった。
「健···ありがと。」
少し場の雰囲気は重くなったが、姉の作ってくれた料理は全て完食した。
「ご馳走様でしたっ!」
大きく手を叩くように合わせ、僕は少し張り出したお腹をポンポンと叩きながら「あ〜!満足ぅ〜!」と戯けてみせた。
「良くお上がりました!」
姉も努めて明るく振る舞ってくれた。
「お風呂入れてくるね。」
姉はまだ食べていたので、僕は椅子から立ち上がり、風呂の準備に向かった。
昼間一度使ったので、お湯が足りるかどうか心配だったが、エコキュートの操作盤の残量は、半分のひとつ上の目盛りにあり、もう一度風呂を張るくらいのお湯は残っていた。
浴槽の栓をして、自動湯はりのスイッチを入れ、リビングダイニングに戻ると姉も丁度食事を終えたところだった。
「お湯、大丈夫だった?」
と姉が聞いてきたので、
「うん。大丈夫そうだよ」
と答えた。
姉が皿を纏め始めたので、僕も重なり纏めてある皿をテーブルから取って、シンクへと運んだ。
テーブルが片付くと、姉が濡れ絞った布巾を渡してきたので、それを受け取ってテーブルの上を拭き上げる。
それは手慣れたいつもの作業だった。
その間に姉は手際良く皿を洗い始めていた。
「健、ちょっとこっち来て。」
姉が呼ぶので、僕は姉の横に立ち、
「なんかあった?」と聞いた。
「キスして。」
姉のせがみに僕は胸をキュンとさせながら、斜め上に突き出された唇にそっと口吻をした。
「えへ♡」
舌をペロッと出し、戯けて見せる姉がスゴく愛おしくて、背中から抱きついた。
そのまま後ろから首筋にキスをする。
姉はくすぐったい素振りで身体を捩り、
「ちょっとぉ〜お皿落としちゃうよぉ〜」
嫌がる風ではなく、笑いながら戯けている姉。
僕らは本当に恋人同士になったんだという実感が込み上げて来ていた。
姉が皿を洗い、僕がそれを受け取り、乾いた布巾で拭き上げる。
それはいつも日常的に行われて来た流れ作業だった。
でも、今はこれまでとは全く違った気持ちがそこにあった。
なによりも愛しい人と隣合わせなのだ。
少し手が触れるだけでも、お互いを意識する。
目と目が合うだけでも温かい気持ちになれた。
食器から調理器具まで綺麗に洗い、片付けが終わると、僕らはそれが当たり前のように風呂場へと足を運び、脱衣所に設置された洗面台で二人並んで歯を磨いた。
洗面台の鏡に映る二人の姿。
姉が歯ブラシを咥える姿さえ、とても愛おしく映る。
姉のにこやかな表情に、僕も自然と笑顔になる。
そしてそこで衣服を脱ぎ捨て、二人生まれたままの姿で風呂場へと入った。
姉は風呂場に入るとすぐさまシャワーヘッドを取り、僕の背中から全身へお湯をかけてくれる。
顔にかからないように背後から頭に向けても丁寧にシャワーを浴びせる。
そして自らもシャワーを浴びてから、一度シャワーヘッドを元に戻し、掌に少し多めのボディーソープを取り、僕の背中から洗い始めた。
すぐに泡立ち、僕の身体は泡に包まれる。
姉の動きに合わせて身体を動かし、僕は姉と向かい合わせになった。
向かい合わせになったタイミングで姉は僕に軽くキスをする。
そして満面の笑顔を見せてくれた。
首筋から胸。胸からお腹。そして僕の一番敏感な部分も柔らかく、そして丁寧に掌で揉み洗う。
太腿から脹脛、足の指も一本ずつ丁寧に洗ってくれた。
そして僕が普段から使っているシャンプーを掌に取り、後ろから優しく両手で揉み洗ってくれた。
それは僕が小さい頃にいつも姉がしてくれた、とても懐かしい風景でもあった。
全身泡まみれの僕はお返しに、とボディーソープを大量に掌に乗せ、姉を背中向きにさせて肩から掌を滑らせる。
姉のきめ細やかな肌が泡立ち、元々滑りの良い綺麗な肌が泡に包まれていく。
滑らかで柔らかい肌質と、美しいカーブを描くボディラインを掌に感じ取りながら、僕は姉の全てを堪能していた。