映画(二)-1
今日も午後から丸川書店の大会議室で、パソコンのモニターとにらめっこしている。二次選考で画面の向う側の応募者と話している。
「先生、どうですか?俺は七番か二十番が肉付きが良くていいと思うんだけど。」「団ちゃんおっぱい星人だから駄目よ!モデルで女優なんだからスレンダーが基本よ!十五番がいいわ。」前回のように音遠と結花のやり取りが始まる。正直、小説の中の理沙に成れそうな女性はいない。
「うーん。羞恥にまみれてオナニーする表情が見たい。」「それって、あくまで演技でってこと?」結花が驚いている。「清純さと淫靡さの極端なギャップがヒロインの特長であり、個性だから。」「先生の言うこともごもっともだ。やらせてみよう!」
「えー、皆さん!今から御主人様に命令されてオナニーする奴隷になってください。映すのはお顔だけで結構ですからね。NGな方は一旦、画面を切ってください。」
ほとんどの応募者が驚いて、うち十人は画面を切ってしまった。「三分程度でお願いしますね。」私が言い出した手前、主人役で命令する。「オナニーしなさい!」モニター越しとはいえかなり恥ずかしい。勿論、録画もしている。
演技の仕方はそれぞれだが、五人ほど本当にやっているように思えた応募者が居た。「この中で今本当にオナニーした方はメッセージをください。五分後にまた始めます。」
実際にオナニーしたという応募者は二人いて、個別にモニター面談する。「どうして、演技じゃなくて、本当にしたの?」結花の出番だ。「演技よりもそちらのほうがいいかなと思って…。」「恥ずかしくないの?」「すごく恥ずかしいです。」耳まで赤く染めて答えているのがわかる。
「いいわ。じゃ、今から五分後におしっこしてくれる?」一人は辞退した。「準備出来ました。」隣でモニターを見つめる美羽が淫蕩に濡れているように見える。
「あっ、おしっこは無しで。三次選考に来てちょうだい。来週の木曜日午後二時からよ。大丈夫?」「あの…ヌードになったりしますか?」団に替わる。「ああ、プロフで貰ってるけど、ちょっと演技して貰うかもしれない。今回は下着姿までかなぁ。」「はいっ!ありがとうございます!」
三次選考は彼女と逆オファーの女優二人となった。最後に残った応募者は私が一番推した二十五歳の極小劇団の女優だった。「ほら、やっぱり先生の目って本物!」結花が感嘆する。「そりゃそうですよ!リアル御主人様ですから!」美羽が後押しする。
「美羽ちゃんも調教されたいんじゃないの?美羽ちゃんだったら理沙役バッチリだわ。」結花が美羽にウィンクする。
「いえいえ、私なんてとても…。」美羽が照れて赤くなった。「美羽ちゃん、美味しいケーキ屋さん見つけたから行きましょ!先生も甘い物はお好き?」結花が美羽の肩を抱いて、エレベーターへと向かった。
結花から依頼のSM写真撮影の前夜、スマホが鳴った。「先生、ごめんなさい!撮影が無しになるかも?予定してた娘が体調崩しちゃって、今代わりをあたって貰ってるけど、イメージと合わないの。」「この前、私の相手をしてくれた瑠璃子さんとかはどうかな?」「あら、気に入って頂けたの。嬉しいわ。瑠璃子に聞いてみるわね。ヌードだけど大丈夫かしら?」「天下のフォトグラファー比留川結花が撮るんだから、すごいことですよ!」「あーら、お世辞でも嬉しいわ。じゃ、後ほど。」
朝八時、自宅前に黒いベントレーが着いた。後部座席には結花と瑠璃子が座っている。「先生、おはようございます!先日はありがとう御座いました。」瑠璃子が一旦車を降りて深々と挨拶をする。助手席に乗り込み郊外にある撮影場所の古民家へと向かった。
「おはようございまーす!」数名のスタッフがいる。結花の助手三名、ヘアメイク、スタイリスト、フラワーアーティスト。写真撮影と共に付録のメイキングDVDも撮るらしい。撮影の内容からか全員女性だ。
「結花様、私…。」不安そうな瑠璃子を結花が抱きしめて頭を撫でる。「瑠璃、好きよ!貴女はとっても綺麗!いつか撮ってあげたいって思ってたわ。」
撮影が始まった。最初は服を着たポートレートから始まる。スタッフは皆ベテランのようで、結花の指示を先読みするかのように順調に動いていく。花と布を大量に使い色彩の魔法をかけていく。
少しずつエロティックな展開を織り交ぜていく。一人佇む何気ない午後に淫靡な白昼夢に囚われる女性がテーマである。
「先生、まずは下着の上からで縛って。腕が背中に回ってバストが縄で強調されるみたいなの。」「はい!了解!高手小手縛りね。」
白いレース地の下着姿になった瑠璃子を縛る。緊張からか顔を赤らめて、少し震えている。緊縛など初めてなのだろう。結花はその瑞々しい初さから溢れる恥じらいをファインダーで捉えていく。
ヘアメイクさんに手伝って貰いながら、後ろ手に重ねた腕から縛っていく。乳房を軽く持ち上げながら縄を通した時に「うっ、んん。」と瑠璃子の吐息が漏れた。痛いのかと思い緩めに縄をかけた。
途中で結花からの声があがる。「先生、何か違うわ。緊縛ってそんなのじゃないでしょ?遠慮しないで!瑠璃子、もうちょっと頑張れる?」「はい!結花様!」瑠璃子が耳元で囁いた。「あの、もっとキツく縛って…。」見つめる瞳が淫蕩に濡れている気がした。
まさか、結花は瑠璃子のそれを見抜いて、AV女優なんて最初っから手配してなかったんじゃないか…。まるで女郎蜘蛛のように巧みに糸を操り、思い通りに獲物を捕えていく。
よく考えれば『熱帯魚の躾方』の映画制作も結花が意のままにコントロールしているように思える。しかし、誰もそんなこと微塵にも思わない。
「ハッハッハ!見事にやられたよ!」結花と目があった。にっこりと笑っている。「さすが、先生。気づくのが早すぎるわ。んふふ…。」