ふたり【序章(?)】-4
「ありがとう。……じゃ、私、帰るね」
ふっ、と離れた手で、彼女は「ばいばいっ」と手を振った。
俺は…うん。とだけ応えて、駆け出していく彼女を見送った。
――神社の裏を通り、空き地の塀を飛び越える。
浅い河原を、石を駆使して駆け抜ける。
俺は脚が速い。
クラスでも三番目位だ。
普通に歩けば40分位の道のりも、近道を活用してダッシュでいけば、カップ麺が出来るあがる頃には着くだろう。
なんでチャリ使わないのって?
体を鍛えるためだよ!
日々の努力なくして、万能人間にはなれない。
皆、そこを勘違いして、俺のことを生まれつきの天才肌と思っているから困る。
この前の体育なんか、一度もやったことのない卓球で、見本として前に出された。
やったことないって先生に言っても、
「大丈夫!お前は何でも器用に出来るから、勘でやればいいんだ!」
…勘で出来る程甘いスポーツじゃねぇだろ。
案の定、俺は赤っ恥をかいた。
「ユキにも苦手なことなんてあるんだね〜(笑)」
お前な―、…あぁ、もう反論する気にもなれない。
まぁ、授業が終わる頃には「それなり」にはなったけど。
話が逸れた。
今、俺が向かっているのはマイホームではない。
―そう、愛しの女の子の家だ!
息一つ乱さず、帰路を完走する。
「斎藤」という表札のどこにでもある二階建ての一軒家。
俺の目的地。
左に目を向けると、30m先にマイホーム。
同じような造りの家を見比べ、もう一度「斎藤」の表札を確認して、小さな庭を横断する。
これには、理由があるんだ。
俺ん家、父さん死んじゃって…俺が生まれてすぐ…交通事故で…
…だから、9時まで親、働いてて帰って来ない。
…で、従姉妹関係でもあるこの家に、ってわけなんだ。
――まっ!これからすっごく楽しい時間になるからいいんだけどね!
結果オーライ!
(すまぬ、父よ)
インターフォンも押さず、ノックもせずに勢いよくドアを開け、
「たっだいま〜!」
と叫ぶ。