カラフル-1
私は眠っていた。
瞼の裏には、暖かな日差しが風に揺れている……
うっすらと目を開けると、私は色とりどりの花々の中にいた。花達は、優しい風に揺れると、様々に着飾った色を踊らせ、それぞれの魅惑に満ちた甘い芳香をこぼれさせた。
私は若草を褥に横たわり、青空を流れる雲の影に漂い、咲き乱れる花々の色と香りに犯され続けながら、若草の中に沈んで行った。土は冷たく黴臭かった。空の光が届かなくなり、色の無い闇が辺りを支配した。それでも私はもっと、もっと、より深い場所に沈んでいった。
誰かの言葉を思い出す。
「人は負け戦をする為に生まれて来たんだよ。いつか必ず死ぬんだからね。どんなに誰かを愛そうと、どんなに誰かに愛されようと、様々な物を手に入れようと、何も手に入れる事が出来なかろうと、沢山の愛に見守られながら死のうと、たった一人で死ぬ事になろうと、その瞬間、人は一人になるんだよ。何の持ち物も持っては行けないんだよ。無に生まれて無に帰る。産まれたままの姿で一人きりで死んで行く。ただそれだけの負け戦さ。学ぶ事はただ一つ。孤独だけだね」
その言葉を聞いた時、確か私は思ったのだ。「孤独結構。孤独が自由を連れて来てくれる」そうなのだ、自由と孤独は表裏一体だ。どちらかだけをしかし…… 自由には様々な色が溢れている。とてもカラフルな世界だ。孤独には色が無い。無彩色の世界だ。
私が次に目覚めた時、そこは色の無い世界だった。何の香りもしなかった。
ただ目の前には、老いて干乾びた、しかしとても美しい、一輪の孤独だけが咲いていた。