あかいろ-1
彼女は雨の中で踊っていた。
その夜知人が開いたパーティーは盛大な物で、建物の最上階にあるレストランを貸し切って行われていた。屋上部分にコの字型の建物があり、中庭のように設けられたスペースが夜空に開けていた。その場所ではバーベキューが催され、建物の中ではDJが音楽を鳴らし、200人以上の人間が、各々の楽しみ方で自由な夕べを楽しんでいた。
しかし、夜も更けて来た頃、肉を焼く煙りが立ち上る暗い空から、霧のように小さな雨粒が舞い降りて来て、中庭に居た人間の大半が、ぞろぞろと屋内に逃げ込んだ。
刻々と雨足が強まって行くのを、人々が恨めしそうに見つめる霞んだ景色の中、1人の女が踊り続けていた。両手を広げ、落ちて来る雨粒を嬉しそうに顔中で受け止め、見事なターンでクラシカルな花柄のスカートを、ひるがえしながら回り続けていた。その姿はまるで雨に愛され、雨を愛する、恋人同士の戯れのようだった。
不謹慎ながら私の目には、彼女が雨粒とSEXをしているようにしか見えなかった。気付くと私は、口を半開きにして、かなりの間抜け面で彼女に見とれていた。
終焉を迎えた美しい舞台から引けるように、彼女は、私が脇に立っていた出口に走り込んで来た。雨に濡れて生き生きとした笑顔の彼女は、神話の中の女神よりも美しかった…… そしてその姿はやはり、SEXの後の女性が放つ、高揚感に濡れていた。
彼女は拍手で迎えられ、皆の祝福の中を、何処かに消えて行ってしまった。
私は側に居た知人に尋ねた。
「誰?」
「え? 知らないの?「もみ」だよ? 歌を歌ってる子」
「え? 歌? ダンスじゃなくて?」
「うん。歌。歌手だよ。紅に絹と書いて『もみ』 」
「紅絹……」
私はその夜、彼女の雨に踊る姿が、頭の中から消える事は無かった。そして降りしきる雨を眺めながら酒を飲み、酔いが心を乱し始めると、彼女と一緒に、熱いダンスを踊っていた雨粒に、嫉妬した。